eぶらあぼ 2022.1月号
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46マーティン・ブラビンズ(指揮) 東京都交響楽団英国の名匠と若きチャイコン覇者が共演する格別なプログラム文:飯尾洋一第940回 定期演奏会Cシリーズ 1/17(月)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール第941回 定期演奏会Aシリーズ 1/18(火)19:00 東京文化会館問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jp イギリスの名指揮者マーティン・ブラビンズが2年ぶりに都響に帰ってくる。ブラビンズは現在イングリッシュ・ナショナル・オペラの音楽監督を務めるベテラン。BBCプロムスやイギリス国内の主要オーケストラをはじめ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団やサンフランシスコ交響楽団など国際的にも活躍する。日本では都響と共演を重ね、名古屋フィルでは首席指揮者も務めた。 ブラビンズにとって母国イギリスの音楽は欠かすことのできないレパートリーだが、もうひとつ彼が大切にしているのがロシア音楽。サンクトペテルブルク音楽院でイリヤ・ムーシンに指揮を学んだ経歴を持つだけに、ロシア音楽には格別の共感を寄せている。今回はそんなブラビンズならではのイギリス音楽とロシア音楽を組み合わせたプログラムとして、ウォルトンの前奏曲とフーガ「スピットファイア」、エルガーのチェロ協奏曲、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」が用意される。「スピットファイア」は映画音楽に由来し、威厳に満ちた前奏曲と活発なフーガからなる輝かしい作品。エルガーのチェロ協奏曲では、2019年、チャイコフスキー国際コンクールを最年少で制したズラトミール・ファンのソロに注目したい。ファンはブルガリア系と中国系の血をひくアメリカ人。次代のスター候補だ。「悲愴」はブラビンズが都響に初登場した際にも取り上げられている。一段と深化した「悲愴」を披露してくれることだろう。室内楽ホールdeオペラ~林美智子の『ドン・ジョヴァンニ』!実はモーツァルトを一番愉しく、美しく味わえる方法文:香原斗志3/19(土)、3/21(月・祝)各日14:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 https://www.triton-arts.net 発想が大胆なら、実現してしまうのはもっと大胆だが、これは存外、的を射ている。《ドン・ジョヴァンニ》のダイジェストなのだが、なんとアリアは全部カットし、重唱だけで構成されるのだ。日本を代表するメゾソプラノのひとりとして活躍してきた林美智子のアイディアである。 オペラの魅力の一面はアリアにあるけれど、登場人物がアリアを通して心情を語っている間、ドラマは進まない。ドラマは、特にモーツァルトのオペラでは、重唱を通して大きく進展するのだ。しかも、モーツァルトの重唱は名だたる作曲家が束になっても敵わない珠玉のアンサンブル。正味3時間の長めのオペラを、初心者も存分に楽しめるようにまとめるなら、重唱だけというのは最良の手かもしれない。いや、オペラ史上最高峰の重唱の数々を立て続けに味わうよろこびに、むしろ練達の聴き手こそが酔いそうだ。 酔えるアンサンブルには手練れの歌い手が欠かせないが、心配はいらない。ドン・ジョヴァンニに黒田博、ドンナ・アンナに澤畑恵美、ドン・オッターヴィオに望月哲也、ドンナ・エルヴィーラに林美智子…と、その役を歌い慣れた豪華な顔ぶれが並ぶ。作品を知り尽くした河原忠之のピアノもうれしい。 室内楽に適した響きの美しい第一生命ホールのステージには、椅子6脚だけが並べられ、曲と曲の間は、林のセンスが光るセリフ(日本語)で結ばれる。思っていた以上の魅力を知らされ、《ドン・ジョヴァンニ》がまた聴きたくなる。そんな時間になるはずだ。過去公演より ©池上直哉ズラトミール・ファン ©I-Jung Huangマーティン・ブラビンズ ©Ben Ealovega林 美智子 ©toru hiraiwa

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