34 「禅」と聞けば厳しい境地を連想するが、1月に金沢で世界初演となるオペラ《禅〜Zen〜》は、石川県出身の仏教学者、鈴木大拙と哲学者の西田幾多郎の交友を軸に、大拙と妻ビアトリスの純愛も描く一作である。NHK大河ドラマ「利家とまつ」の音楽で知られる作曲家、渡辺俊幸が構想をじっくり語る。 「私は、オペラではプッチーニが好きなんです。美しいメロディが溢れていますね。当時の観客も、現代人がミュージカルを観る感覚でオペラを味わったのでしょう。そこで私も、《禅》を多くの方に観ていただける作品にしたいとまずは願いました。オペラならではの格調の高さを念頭に置きつつも、愛や別れの場面も交え、笑っていただけるシーンも設けています。台本作者の松田章一さんにも、『オペラ的な愛のテーマを作曲したいから、普段お書きにならないような甘い言葉もたくさん入れてください』とお願いしました」 管弦楽はもちろん、オーケストラ・アンサンブル金沢。 「『利家とまつ』からご縁がある団体で、編成は大きくないですが素晴らしいオーケストラですね。今回はトロンボーンを3管増やして演奏いただきます。主人公の大拙は、明治の人ながら10年近くをアメリカで過ごして英語も堪能になり、禅の思想を世界に広めることができた偉人ですね。彼は、漢字の『妙(たえ)』を、自らの思想を集約する一字として捉え、それを英語で『Wonderful』と訳しました。そこで、この単語を使った彼の詩にメロディを付けて全曲のメインテーマとしています。ご注目ください」 楽譜を見ると、確かに流れの良い曲調が多い。開幕冒頭も、大拙と西田のほのぼのとした対話から。 「そうですね。大拙役はテノールの中鉢聡さんが1月の金沢を、伊藤達人さんが2月の高崎公演を担当されます。他の方はほぼシングルキャストで、西田役はバリトンの今井俊輔さん。ビアトリス役はソプラノのコロンえりかさん。えりかさんの美声も皆さん魅了されるでしょう。なお、劇中には、バスの森雅史さん演じるマッカーサーと大拙が対話するシーンもあるんですよ。二人の対面は記録には残っていませんが、東洋と西洋の出会いの象徴としてご覧いただければ幸いです」 ところで、渡辺の父は高名な作曲家の渡辺宙明氏。教育は厳しかったのだろうか? 「あまりに厳しかったので、『絶対作曲家にはならない!』と宣言したんです(笑)。クラシックに反発して演奏会にも行かず。ただ、ハーモニーの美しいドビュッシーやラヴェルはこっそり聴いていました。でも、やはり作曲を志すようになり、ボストンのバークリー音大に留学したとき、小澤征爾さんがボストン交響楽団の音楽監督として市民から本当に愛されていると知り、そこで初めてコンサートホールに足を踏み入れたんです。あの時は、生のオーケストラの響きに本当に揺さぶられました…。今回の《禅》のステージでも、生の音楽を聴く喜びを、いろんな世代の方が味わってくださったらと願っています」鈴木大拙・西田幾多郎 生誕150周年記念 2022年世界初演 全国共同制作オペラ《禅〜ZEN〜》(全3幕)作曲:渡辺俊幸 台本:松田章一 演出:三浦安浩 指揮:ヘンリク・シェーファー 管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢合唱:金沢オペラ合唱団(1/23)、高崎オペラ合唱団(2/6)出演 鈴木大拙:中鉢 聡(1/23)、伊藤達人(2/6) 西田幾多郎:今井俊輔 ビアトリス:コロンえりか 乃木希典:原田勇雅 他1/23(日)14:00 金沢歌劇座 問 金沢芸術創造財団076-223-9898 https://www.kanazawa-arts.or.jp2/6(日)15:00 高崎芸術劇場 問 高崎芸術劇場チケットセンター027-321-3900 http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/※公演の詳細は、上記各ウェブサイトでご確認ください。渡辺俊幸Toshiyuki Watanabe/作曲Interview取材・文:岸 純信(オペラ研究家)東洋と西洋の出会いの象徴としてご覧いただきたい
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