27審査員のことばから審査員のことばから 今回、日本人は数と質、両方の意味で大きな成功をおさめましたね。これまで何度も審査をしてきた中で、最も印象的でした。すでにキャリアがある方もいましたし。昔は日本人っぽい演奏というのがありましたけれど、それぞれが学び成長して、個性がみんな異なるようになりました。喜ばしいことです。(中略) 今回は、音楽的にパーフェクトに演奏していて、ショパンらしく歌い詩的であるというだけでは十分でなく、加えて、この人は何を伝えようとしているのかがわかり、そこに十分なストーリーが感じられるピアニストが求められたように思います。あとは、すべての音、すべてのディテールに意識が届いているか、センスが感じられるかどうかも大切でした。◎ダン・タイ・ソンDang Thai Son ショパンの音楽における主な要素は、レガート・カンタービレです。p からゆっくりとしたレガートで歌う、でも、音が今の感覚の f 以上になったときには、もう歌っているとはいえません。ショパンには ff のリミットがあったということを考えなくてはいけません。ショパンは、今のモンスターのようなピアノを見たことはなかったのですから。 たとえば、ショパンの楽譜に fff が書かれていたとき、これを小さなプレイエルやエラールのピアノで弾いた場合、どんな音だったか想像しなくてはいけません。fff が今の私たちの f だとすれば、現代のピアノでエネルギーを全部かけて弾く音は、うるさすぎると言えるでしょう。◎ピオトル・パレチニPiotr Paleczny いま私が感じている問題は、今回の結果が、オリジナリティを求めるということに影響されすぎていたのではないか、ということです。目立ったり、説得力をもって聴衆とコミュニケーションとろうとするあまり、楽譜に書かれていることに反した演奏をするのは、良い決断といえません。ショパンの音楽を演奏するにあたっては、ショパンが言っていることを聞かなくてはいけないのです。 いろいろなマスタークラスを受けすぎて、アドバイスに混乱することもあるかもしれない。そして、人の意見を聞きすぎて、自分で楽譜をチェックすることを怠る。こんなことは、私から言わせればクリエイティヴでもなんでもありません。誰も見つけられなかったものを見つけたことにもなりません。ただの楽譜違反で、最も重要な人物であるショパンを無視するということです。◎クシシュトフ・ヤブウォンスキKrzysztof Jabłoński取材・文:高坂はる香
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