eぶらあぼ 2022.1月号
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108用に設置された360度カメラの視点を通して見ることになる。それは「周囲を見回す自由」はあっても「歩き回る自由」はないため、「3D映像の驚きの鮮度」は長く続かないのだ。とくにダンサー2人が床の上でねっとり踊り始めると(これ別にパソコンのモニターでよくね?)と、没入感よりもHMDの重さに意識が移ってしまう。3Dというテクノロジーの強みをダンスのために生かし切るには、まだまだ研究の余地があるようだ。 12月に行われたテルアビブの歴史ある国際ダンスフェス「インターナショナル・エクスポージャー」は、通常のオンライン開催だったが、配信された映像の質が驚異のレベルだった。高画質すぎて映像を見ている感じがせず、本当に手を伸ばしたら触れるような鮮明さとリアリティ。 より良い形でダンスを届けるために、関係者は様々な知恵を絞っているのである。 ……さて、2021年はこの号が最後となる。 今年は海外取材もなく、余裕のある時間のおかげで溜まった原稿を集中的に書けた。睡眠時間も確保できている。やばいレベルで収入は激減したが、長年忘れていた真人間ペースで暮らせている。 来年はとりあえずはこの連載の100回に向けて頑張っていきたい。 良いお年を!第87回 「3D映像配信による国際ダンスフェスティバル」 9月末に緊急事態宣言が解除された。オレは2022年の海外フェスの取材やダンス講座をしにいく話を4ヵ国と進めており、「やっと世界も動き出したか」と思っていた。その矢先にオミクロン株の大流行が起こり、またもや雲行きがわからない。一年以上前から「with コロナの時代」みたいなことは言われてきたが、現実はそうそう簡単にはいかないな。 そんな中、国際的なダンスフェスもコロナ禍での開催には様々な知恵を絞っている。 10月にエルサレムのMASHダンスハウスは「VR Dance International Edition」を開催した。コロナ禍の中、集客型のイベントは壊滅的である。そこで世界中のダンス関係者にヘッドマウントディスプレイ(HMD)を送り、世界各地からVR空間での3D映像のダンスを鑑賞させようという画期的なアイディアだ。 オレにもHMDが送られてきた。パソコンなどの接続はどうするんだろう……と思いながら箱を開けた。オレがなんとなく抱いていたイメージは「3DゲームのようなVR空間に入っていく」ものだったが、そうではなかった。「HMDにスマホを装着してその画面を見るタイプ」だったのだ。なんなら百均でもちょっと高めの価格設定で売られているアレである。3D映像用に加工されたYouTubeの映像をスマホ画面で視聴する。それをHMD内の左右に分かれたレンズ越しに見ると3D映像になるわけだ。なるほど、これならコストを抑えられる。 とはいえ360度映像なので、HMDを付けたまま顔をめぐらせれば、映像の中の全方向を見回すことができる。実際、始まってみると、自分の周りでダンサー達が踊っており、どこを見るかは自分次第。通常公演ではありえない視点で鑑賞できた。 ただこういう3D公演にはつねに「カメラの位置問題」がついて回る。ほとんどの場合、視聴者は撮影Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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