36カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団若き才能あふれる同い年2人の競演が実現文:林 昌英第736回 東京定期演奏会〈秋季〉12/10(金)19:00、12/11(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://japanphil.or.jp 日本フィル12月定期に、1986年シンガポール生まれの指揮者カーチュン・ウォンが登場する。2016年、第5回グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝以来、世界で活躍する若きマエストロだが、日本にも拠点があり、この1年は代役などで国内各地の楽団に出演して、その実力を広く知らしめた。日本フィルとの初共演は今年3月。独特のサウンド(特にベースの表現の豊かさ!)を引き出して鮮やかな好演を実現し、会場も沸いた。そして、その1回の成功が幸福な出会いとなり、なんと同楽団首席客演指揮者の就任が決まったのである。 その「就任披露」記念公演となる12月は、アルチュニアンのトランペット協奏曲とマーラーの交響曲第5番が披露される。20世紀アルメニアの人気協奏曲のソリストは、同楽団ソロ・トランペット奏者、1986年イタリア生まれのオッタビアーノ・クリストーフォリ。まだ30代だが、2009年入団以来、輝かしい名奏を重ねて存在感抜群の名手である。しかもカーチュンとは同い年。若さと貫禄を併せもつ2人による、息の合った快演が楽しみだ。マーラーの5番は冒頭の葬送から最後の熱狂まで、複雑な感情が交錯する大曲だが、作曲者の名を冠するコンクールの覇者がどんな名演を作り上げるのか、期待が高まる一方だ。 実はこの2曲、残念ながらコロナ禍で開催できなかった20年3月定期と同内容で、本来はこのコンビ初共演演目となるはずだったもの。関係性の劇的な変化を経て、改めて臨む同演目。両者の強い思い、しかと見届けたい。迫 昭嘉の第九 vol.6ベートーヴェン後期の入り口チェロ・ソナタ第5番と併せて文:伊熊よし子12/18(土)15:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 https://www.hakujuhall.jp 多くの人が、年末になるとベートーヴェンの音楽を聴きたいと願うのではないだろうか。昨年の生誕250年のメモリアルイヤーに行われる予定だった「迫昭嘉の第九」はコロナ禍で延期となったが、それがいよいよ実現されることになった。 今回は、前半にベートーヴェンの最後のチェロ・ソナタ第5番が、後半に最後の交響曲第9番(リストによる2台ピアノ版)が演奏される。チェロ・ソナタ第5番はロマン派音楽につながる作品として自由な創意工夫が見られ、第1楽章はチェロの華やかさ、ピアノのトレモロが特徴。第2楽章アダージョは抒情的な緩徐楽章で、低音の主題が美しい。第3楽章はバッハのフーガ技法が取り入れられ、巧みな4声のフーガを構成している。チェロは迫が30年共演を続け、お互いの呼吸を飲み込んでいる向山佳絵子。この作品での共演は初めてゆえ新鮮なデュオが生まれるに違いない。 「第九」では一昨年の共演で大きな喝采を浴びた江口玲が登場。「第九」リスト編は、あたかもオーケストラのように多種多様な響きが2台のピアノから紡ぎ出される。Hakuju Hallの親密で高音質なホールでは各音がクリアに聴こえ、ベートーヴェンが「第九」に託した深遠で壮大な音楽が聴き手の全身を包み込むように伝わってくる。迫の音はリリカルで透明感にあふれ、歌を奏でるよう。江口は凛とした響きと構成力が特徴。それが和し、聴き手を至高の世界へと導いていく。 ©武藤 章オッタビアーノ・クリストーフォリ ©RINZOカーチュン・ウォン ©山口 敦
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