eぶらあぼ 2021.12月号
117/133

114ダンスの宿敵である音楽著作権使用料についてもクリアしてくれている。 ちなみにオレは配信する映像の選考委員を務めた。今回は特にダンス分野が充実していて、一挙に19作品が配信される予定だ。しかも「全作品の解説をオレ一人で書く」という粋なオーダーもいただいた。とくに外国語に訳されたときに必要になる情報に最大限配慮して解説したつもりだ。 これに協力しているのがEPAD(緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業)。名前にもあるとおり、「STAGE BEYOND BORDERS」は配信のみならず、映像アーカイブとして積み重なっていくことも期待されているのだ。欧米では国内外のダンス映像を美術館やダンスセンターなどが収集し、権利関係もクリアして、人類共通の財産として見ることができる体制がある。日本ではこれまでアーカイブ作りの企画が立ち上がってはポシャるを繰り返してきた。収集・管理の手間と権利関係をクリアする難しさのためだ。しかしこれでやっと「50年前のフランスのダンスはすぐ見られるが、15年前の日本のダンスを見る術がない」という歪んだダンス状態が改革されるかもしれない。 いや、そうならなければ困る。コロナ禍という緊急事態のおかげで、長年ビクともしなかった扉が開いたのだとすれば皮肉な話だけれども。第86回 「再開するフェス、始動する映像配信&アーカイブ」 10月いっぱいで緊急事態宣言が解除された。11月から12月にかけては、昨年中止・延期になった各種のフェスティバルやイベントが続々と再開される予定だったので、宣言解除は最高のタイミングとなった。 11月には「東京芸術祭2021」「Dance New Air 2020→21」などなどが開催中だ(オレがアドバイザーをしている国際ダンスフェス『踊る。秋田』は10月に予定されていたが、あるミュージカル公演からクラスターが発生して舞台芸術のほとんどが不可能となり、涙をのんで中止になった)。 そして12月には「ヨコハマダンスコレクション」と「YPAM(横浜舞台芸術ミーティング。旧TPAM)」が開催される予定である。ともに日本のパフォーミング・アーツを支えてきたイベントで、これまでは毎年2月に開催されてきたが、今年度から12月に移動した。ふたつとも同時期に横浜で開催されるので、海外から100人を超える舞台関係者が集まるのが常だった。昨年2月にはすでにクラスター感染を起こした豪華客船が横浜港に停泊してはいたが、まさかその後に世界的なパンデミックが起こるとは、誰も思っていなかった。 そんなコロナ禍も2年目となっている。アーティストに対して様々な補償をする欧米を横目に見ながら、アートを支える日本社会の脆弱性を嫌というほど見せつけられてきたが、それでも新しい動きはある。 そのひとつが国際交流基金の「STAGE BEYOND BORDERS」である。これは日本の現代演劇・ダンス・伝統芸能を、国内外にオンライン公開するプロジェクトだ。しかも約5ヵ国語の多言語字幕を付けるというのだから、本気度がうかがえるね。昨今ではテキストを使うダンス作品も多いからな。もちろんProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

元のページ  ../index.html#117

このブックを見る