eぶらあぼ 2021.11月号
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52©Fukaya Yoshinobu新倉 瞳(チェロ)自身の「好き」が詰まった委嘱作品集取材・文:宮本 明Interview チェリスト新倉瞳のデビュー15周年を飾る新譜『11月の夜想曲』がすごい! 全曲が彼女の委嘱作品で、その初演をライブ収録した一枚。委嘱したのはファジル・サイ、藤倉大、挾間美帆、佐藤芳明、和田薫の5人の作曲家。 「作品を委嘱するのは初めて。ずっと憧れていたのですが、面識がない作曲家さんにいきなり頼めないと思い行動に移していませんでした。私の“片想い”でなく、お互いが信頼し合うことが必要だと思っていたので。そうしたら驚くほどに自然といろんな巡り合わせやご縁に恵まれ、点だったものがここで線になって繋がった感じでした!」 ファジル・サイの「11月の夜想曲」(2019)はオーケストラを伴う協奏的作品(飯森範親指揮の東京交響楽団)。 「サイさんの、トルコの民俗的な香りのする部分が大好きです。夜のイスタンブールを散歩している雰囲気の曲。コロナ前に書かれた作品ですが、暗闇を手探りの状態で進まなければならない心理が現れているようです」 邦人作品はいずれも今年1月、一気に4曲初演という、しびれる音楽会で生まれた作品だ。4人の顔ぶれも、そして無伴奏から、マリンバ、アコーディオン、和太鼓との各二重奏という編成も、まったくありきたりでない多彩さ。 「藤倉さんは最初、私のことをお嬢さま! と思っていたんですって。でもだんだんそうでない部分を感じ取られたらしく、破裂音などを駆使して、“不良な”私を表現してくれました。挾間さんの作品はマリンバ(塚越慎子)とのデュオで、各楽章のタイトルは私が過ごしてきた街の名前です。言葉の壁もあってなかなか受け入れてもらえなかったサンフランシスコのちょっと暗い少女時代など、挾間さんにお話ししたことが音楽になっているなと感じます。 一緒にデュオも組んでいるアコーディオンの佐藤さん。チェロとアコーディオンって音域が同じで、とても相性がいいんです。私はいつも佐藤さんから音楽家としての心構えなども教えていただいているのですが、2人の音楽家、2つの楽器が影響を受け合う様子をテーマにした曲を書いてくれました。アニメ『犬夜叉』の音楽などでも著名な和田さんの和太鼓(林英哲)とのデュオは、音量バランスも特殊で世界初の組み合わせかもしれませんが、私は最初に提案をいただいたときから絶対にいけると信じていましたし、和田さんマジックと林さんのベテラン技はさすがでした」 11月には発売記念を兼ねた15周年リサイタルも。 「とくにこの5年間に濃厚にご一緒させていただいた奏者の方々をゲストに招いて、“お祭り”な感じです。そしてそこから、今はまだ見えていない次のことが見えてくるんじゃないかなと楽しみにしています」入野賞 第3回室内楽受賞作品コンサート先駆的な作曲家の精神を引き継ぐ若手の秀作を紹介文:江藤光紀 入野義朗は研ぎ澄まされた感性で音に鋭く対峙した作曲家であった。1980年に世を去った故人の志を継いで入野賞が創設され、今では国際的なコンクールとして定着している。 2010年、17年と開催された室内楽部門の受賞作コンサート、3回目となる今回は入野(シュトレームング)と、その弟子で賞の選考委員も務めた藤田正典の作品(ロトス Ⅱ)に加え、第38・40回の受賞作を紹介する。受賞者はいずれも30代だが、香港出身のタクチャン・ホイ(輪…年輪)、オランダのジェシ・ブロー11/12(金)19:00 府中の森芸術劇場 ウィーンホール問 キーノート0422-44-1165http://www.irinoprize.jpクマン(ナロウ・ヌメラス)、フィンランドのヨウニ・ヒルヴェラ(アートメン・ヴェルク)、トルコ生まれのウトク・アシュロール(ウント)と出身地はさまざま、また緊張感の張り詰めた静寂が支配するものから、激しい躍動に満ちたものまで作風も多様だが、入野の創作に対する厳しい姿勢を反映してか、いずれも細部まで考え抜かれ未来の可能性を感じる秀作ぞろいだ。現代音楽のトップ団体アンサンブル・ノマドが各作品の本質に肉薄する。新倉 瞳 デビュー15周年記念リサイタル~新倉瞳委嘱作品集『11月の夜想曲』発売記念~11/8(月)18:30 紀尾井ホール問 アスペン03-5467-0081https://www.aspen.jpSACDハイブリッド『11月の夜想曲~新倉 瞳 委嘱作品集(世界初演初録音)』アールアンフィニMECO-1065 ¥3300(税込)10/20(水)発売左より:タクチャン・ホイ/ジェシ・ブロークマン/ヨウニ・ヒルヴェラ ©Maarit Kytöharju/ウトク・アシュロール

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