eぶらあぼ 2021.11月号
48/145

45アンドレア・バッティストーニ(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団画家ボスの傑作にインスパイアされた自作曲を初めて指揮文:片桐卓也第960回 サントリー定期シリーズ 11/1(月)19:00 サントリーホール第961回 オーチャード定期演奏会11/3(水・祝)15:00 Bunkamura オーチャードホール第142回 東京オペラシティ定期シリーズ11/4(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京フィルチケットサービス03-5353-9522 https://www.tpo.or.jp 指揮者としての実力は衆目の認めるところだが、この2021シーズンには作曲家としての知られざる一面も見せるアンドレア・バッティストーニ。11月の東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会では彼の書いた「フルート協奏曲」(2019)が日本初演される。 この作品のサブタイトルは〈『快楽の園』~ボスの絵画作品によせて〉だが、これはマドリードのプラド美術館に所蔵される初期フランドル派の巨匠ヒエロニムス・ボスの傑作のこと。奇想の画家と呼ばれるボスによる祭壇画で、外面には天地創造の時の地球が描かれ、それが開かれると、聖書に基づくエピソードに加え、木の根の形をした人間、耳の戦車など、我々の想像を超えたリアル、グロテスク、かつ甘美な世界が展開される。 鋭敏なバッティストーニがこの傑作からどんなメッセージを受け取ったのか? それは作品を聴くまで分からないが、バッティストーニ作品をこれまでも演奏してきたイタリアの若手フルート奏者トンマーゾ・ベンチョリーニ(同曲の昨年3月ベルリン初演も担当)がソロを担当し、しかもバッティストーニ自身がこの曲を指揮するのも初めてということで、作品の魅力がより豊かに伝えられるだろう。後半にはチャイコフスキーの傑作「交響曲第5番」が置かれ、マエストロのドラマティックな音楽作りが炸裂する。彼の様々な才能を知るコンサートとなるだろう。ヴァレリー・アファナシエフ(ピアノ) TIME 第1年(3回シリーズ)巨匠が極めたピアノ芸術を共有する特別な時間文:飯尾洋一11/16(火)19:00 王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp 今年5月、エリザベート王妃国際音楽コンクールのピアノ部門が開催され、務川慧悟と阪田知樹のふたりの日本人が受賞して話題を呼んだが、かつてこのコンクールで優勝を果たして大きく運命が変わったのが、ピアニストのヴァレリー・アファナシエフだった。ソ連出身のアファナシエフは、コンクール優勝をきっかけとして、ベルギーで演奏会を開いた際に西側に政治亡命を敢行した。以来、世界各地で演奏活動を繰り広げ、とりわけ日本へは1983年の初来日以来、たびたび来日して記憶に残る演奏を聴かせている。 よくアファナシエフを形容する言葉として用いられるのが「鬼才」。作品を一から見直すことによって独特の解釈を練り上げ、ときには極端に遅いテンポを採用することも辞さない。音楽のみならず言葉においても雄弁なピアニストであり、その音楽論は決して万人にとってわかりやすいものではないが、結果として刺激的な音楽が生み出されていることはまちがいない。 今回の王子ホールでのリサイタルは「TIME」と題される3年にわたるシリーズの第1回にあたる。ピアノ音楽史における重要作を年代順にたどるコンセプトが掲げられ、まずはバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻より8つの「前奏曲とフーガ」、そしてモーツァルトの幻想曲ハ短調 K.475とピアノ・ソナタ ハ短調 K.457が演奏される。いかにもアファナシエフらしい凝縮された純度の高いプログラムというべきだろう。孤高のピアニストが誘う小宇宙への旅を体験したい。トンマーゾ・ベンチョリーニアンドレア・バッティストーニ ©上野隆文

元のページ  ../index.html#48

このブックを見る