eぶらあぼ 2021.11月号
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クリスチャン・ツィメルマン©Bartek Barczyk37Informationラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル10/24(日)14:00 サントリーホール10/26(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)10/28(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(完売)エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル10/28(木)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)11/10(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール11/17(水)19:00 サントリーホールクリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル11/30(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)12/8(水)、12/13(月)各日19:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp ※記載以外の公演情報は左記ウェブサイトでご確認ください。ヴェンの後期作、そしてマズルカを主とするショパンで、そのプログラム本篇は結ばれる。オーソドックスな曲目のなかにも、さまざまな思い出が詰まっているのかもしれない。 ラファウ・ブレハッチは2005年のショパン・コンクールで優勝して世界に飛翔したが、その2年前には浜松国際ピアノコンクールで最高位に入賞し、日本の聴衆には馴染み深い存在だった。それからもう十数年、時代に急かされることなく、しっかりしたまなざしで自身の音楽を着実に成熟させてきた。ショパンの演奏においても、古典派の美学を抽き出して純度の高い構築をていねいに導くブレハッチが、バッハやベートーヴェンに適性を示すのは自然なことだろう。 この秋のプログラムは前半をハ短調、後半をロ短調でまとめた知性的な構成。バッハのパルティータから、ベートーヴェン初期のソナタと変奏曲までがハ短調、そこから半音下がりロ短調をとってフランクの「前奏曲、フーガと変奏曲」をめぐって、ショパンのソナタ第3番へと向かう。調性を集中して絞り込むことで、さらに奥深い多様性と個性を明かすように、彼らしい熟慮を聴かせるのだろう。 クリスチャン・ツィメルマンはまず、バッハの変ロ長調とハ短調の2つのパルティータを弾く。原点回帰の趣もあるのではないか。その先には、ブラームス後期の「3つの間奏曲」op.117で、対位法的書法の精緻な深まりを聴かせる。精妙な音響設計のもと、見通しよく精緻な造型で、透過光のように声部の絡まりを描き出すはずだ。近年の実演でのベートーヴェンやシューベルトの後期ソナタ、ブラームスの四重奏曲への集中した取り組み、昨冬のラトル指揮ロンドン交響楽団とのベートーヴェンの協奏曲全集録音の成果も踏まえ、いよいよドイツ音楽への探求を深めるツィメルマンの最新の進境が明かされる。 ブラームスの変ホ長調、変ロ短調、嬰ハ短調の3つの間奏曲を経たのちに、ショパンの大作、ロ短調ソナタにいたる構成。両作とも亡くなる5年前の卓越した成果である。ちなみに、バッハの第1パルティータとブラームスの第2曲は同主調の関係。プログラム全体としては短調を採る曲が多く、それらは近接する主音を上下にめぐる巧緻な設計となる。 興味深いことに、三者三様の名手でありながら、バッハからショパンへ向かうプログラムの流れは相通じている。とくに同郷の良き先輩後輩の曲目は大きく重なっていて、しかし表出されてくる音楽世界は自ずと異なるだろう。それもまた楽しみなところだ。

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