128 感染対策には十分配慮しながら、準備体操の後、まずは90秒間、自由に踊ってもらった。この「自由に」がクセモノなのである。「同じ動作を繰り返さないように!」と注意するのだが、初心者はもちろんバレエでもヒップホップでも型を重視するダンスをしている人は、「自由に」踊るとどうしても30秒位で同じ振りの繰り返しになってくるのである。たいていの人は「自分の身体は自由に動かせる」と思っているが、じつは全然自由なんかじゃない、と実感してもらうための時間である。我々は日常生活では驚くほどパターン化された動きしかしていないのだ。 その上で、頭で考えながら動く(数字を数えていき、3の倍数と3がつく数字の時にリアクションをする「世界のナベアツ」式ダンス)など、「自分の身体をあらためて知る」ことを主眼においた。なぜならそれは本能的に「楽しい」ことだからだ。音を楽しむことから音楽が生まれるように、自分の身体を楽しむことからダンスは生まれてくる。 かつて中学校の体育の授業でダンスが必修科目になったとき、期待されたのはそこだった。運動神経や体格にかかわらず、身体を動かすことの「楽しさ」を知る授業。人間として最も大切なことだ。しかし実際はほとんどがヒップホップで、あいかわらず運動神経の優れた子どもだけが楽しい時間になってしまった。 そういうんじゃない。ダンスはもっと広く、豊かなものなのである。第85回 「聞く! 書く! 話す! そして踊る! 4連続ダンス講座開催!」 富山のオーバード・ホール開館25周年企画で、4回にわたってオレのコンテンポラリー・ダンス講座が行われた。せっかくなので担当者と相談し、毎回違う趣向を凝らした。 第1回は「聞いてみる」、つまりオレの座学講座だ。第2回「書いてみる」はオーバード・ホールでのダンス公演を実際に観た直後に、140字で感想を書くもの。公演数の少ないダンスにとって、一般の人の速報的な感想が与える影響は大きい。オレがひとりずつ添削し、語彙や発想を飛ばす練習方法などを伝授していった。 第3回は「話してみる」。海外では劇場の敷地内に雰囲気のいいカフェやレストランがあって、終演後に飲みながら感想を交わす。そこへ出演者が通りがかって話したりする。日本はそういう場所が少なく、終演後はとっとと帰ってしまうことがほとんどだ。だがオレの講座に参加した人たちは、その後も地元でつながっていてほしいのである。 とはいえほぼ初対面の相手と話すのはハードルが高い。だが今回の参加者は第2回講座の「書いてみる」ですでに自分の考えは整理されている。話したいポイントも明確になり、話すための準備は万端の状態に仕上がっていた。 さらに会話にテンポをつけるため、専門家のオレから見て話のトリガーになりそうなポイントを箇条書きにして提示しておいた。これが「会話の芽」になる。そして会話が冗長にならないようテレビで見た婚活パーティの方法を利用した。会話の時間は約90秒間と時間を区切り、時間がきたら強制的に終了して人を組み替える。1グループ8人くらいに分かれても活発に会話が弾んでいた。 そして第4回は「踊ってみる」。「乗越が振り付けるの?」とネットがざわついたが、逆だ。これは「ダンスは同じ動きを揃えて踊るもの、という思い込みを壊すための時間」なのである。Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお
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