eぶらあぼ 2021.9月号
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62©Ayane Shindo広田智之(オーボエ)デリケートな気づかいと自然な歌が伝わる絶品のアルバム取材・文:宮本 明Interview オーボエの広田智之とギターの大萩康司が、この珍しいデュオ編成のアルバム第2弾『カンティレーヌ』をリリースする。先に言ってしまうと、これ、すごくいい。広田に聞いた。 「ギターとオーボエのシンプルな魅力、一番いいところが出ていると思います」 そう思う。演奏も録音も、2つの楽器がほどよい距離感で自然に歌う、柔らかな印象。しかし実はその「自然な歌」も名手だからこそ。 「オーボエの立場からいうと、ギターとの演奏はそれなりに気遣いが必要です。音量バランスは言うまでもありませんが、音がすぐに減衰するギターの特性もあり、オーボエの音像が細かい部分まで丸見えになる。油断禁物です(笑)。でも裏を返せばオーボエの良い音の成分を全部聴いていただけるわけです。 ギターとのアンサンブルにおける発音も大切な要素になります。音の立ち上がりがいいと言われるオーボエのアタックとギターのあの柔らかな鳴り出しをお互いが音楽的に合わせるというテクニックが必要になりますね 」 そんなデリケートな気づかいと高度なテクニックが随所に詰まっているからこそ、類まれな溶け合いのよい二重奏が生まれ、新たな化学反応も立ち昇る。アルバム最大の聴きものがシューマンの「3つのロマンス」だ。 「オーボエとピアノのために作曲されたこの曲は、オーボエのレパートリーを代表する名曲ですよね。でもギター独特の、音が減衰して空気に溶けていくような儚い特性が僕の感性と同調するというか、オリジナルのピアノとよりも自分らしさが出るような気がするんです。 自分のオーボエ吹きとしての個性に、より親和性があると感じています。いつもとは違った吹き方もしているので皆さんがご存知のロマンスとは少々テイストが違って聴こえるかもしれませんね」 ギター編曲は大萩の手による。シューマンのピアニズムをギターに移すのは非常にセンスが問われると思う。 「彼ならではの音のチョイスが光るアレンジです。彼は人柄も素晴らしくて、おかげでレコーディングが嫌な空気になることもないんです。非常に快適。すごくかわいい弟のようでもあり、音楽的に尊敬する親友のような存在でもある相棒です」 いつもだと自分のCDを押し付けるようなPRは気が進まないと謙遜する広田が、「これは本当におすすめです!ぜひ聴いてみてください」とイチオシの、納得の自信作。発売は8月20日。「カートに入れる」を即クリック!渡辺玲子 プロデュース レクチャーコンサート vol.6ブラームス晩年の交流 巨匠晩年の交流を多面的に味わう希少な夕べ文:柴田克彦 ただ聴くだけでなく、“知る”喜びも味わえるのが、Hakuju Hallの「渡辺玲子 プロデュース レクチャーコンサート」。超絶的な技巧と豊かな音楽性を持った世界的ヴァイオリニストにして、国際教養大学特任教授として長年集中講義を行っている渡辺ならではの、知的好奇心を刺激する企画だ。そのvol.6が「ブラームス晩年の交流」。グリーグのソナタ第3番、ドヴォルザークの4つのロマンティックな小品という両者の同分野の最高傑作に、クラリネットやヴィオラでお馴染みのブラームス最晩年のソナタ10/29(金)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700https://www.hakujuhall.jp©Yuji Horiop.120-1というプログラムは、聴くだけでも充実度満点。なかでもブラームス(作曲家自身の編曲)作品は、同版独特の繊細な哀感を享受する希少な機会となる。そして、同じ1887年に書かれたグリーグ&ドヴォルザーク作品と1894年のブラームス作品に内包されたメッセージは? 彼らの交流は? など、語りへの興味も尽きない。ピアノは名手・江口玲ゆえに態勢は万全。サロン的な空間でこれを堪能するのは贅沢な時間というほかない。広田智之×大萩康司 NEWアルバム「カンティレーヌ」発売記念 9/17(金)19:00 大阪/ドルチェ・アーティスト・サロン問 ドルチェ楽器06‐6377‐1117 https://www.dolce.co.jp広田智之&大萩康司デュオ・リサイタル9/18(土)14:00 愛知/宗次ホール問 宗次ホールチケットセンター052-265-1718 https://munetsuguhall.comSACD『カンティレーヌ』妙音舎 MYCL00008 ¥3520(税込)8/20(金)発売

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