38大谷康子のヴァイオリン賛歌 第5回 〈情熱〉タンゴのメロディに“情熱”を込めて文:飯尾洋一9/25(土)15:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 https://www.hakujuhall.jp ヴァイオリニストの大谷康子がHakuju Hallとともに進める10年がかりのプロジェクトが「大谷康子のヴァイオリン賛歌」。2016年に第1回の公演を開いて以来、今年で5回目を迎える。毎回、ひとつのテーマを掲げてプログラムが組まれており、今回のテーマは「情熱」。タンゴを中心とした凝った選曲が用意される。ヴァイオリニストのリサイタルでタンゴに焦点が当てられるのも珍しいが、実は大谷はタンゴが大好きなのだとか。タンゴ独特の強烈なリズムと、そこに漂う哀愁、胸の奥まで染み渡るメロディに惹かれるという。 プログラムは2部構成。第1部で主役となるのはアルゼンチンが生んだタンゴの革命児、ピアソラの代表作。「アディオス・ノニーノ」や「タンゴの歴史」「リベルタンゴ」ほかの名曲が並ぶ。今年生誕100年を迎えたピアソラの魅力に改めて気づかされることになるだろう。一方、第2部は多彩だ。ストラヴィンスキーの「タンゴ」から、「ラ・クンパルシータ」や「エル・チョクロ」といったタンゴの古典まで。さまざまな姿のタンゴに大谷が情熱を込める。共演は多くのアーティストから信頼を寄せられるピアノの山田武彦、ルネサンス音楽からジャズ、ロック、ワールドミュージックなど幅広く活動するパーカッションのクリストファー・ハーディ。 ひとりのヴァイオリニストが10年越しのシリーズを続けるのは稀有なこと。その折り返し地点にふさわしい熱気にあふれたステージを期待できそうだ。山田武彦東京フィルハーモニー交響楽団 ハートフルコンサート2021昭和の名曲とともに平和を希求する文:萩谷由喜子8/15(日)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 東京フィルチケットサービス03-5353-9522 https://www.tpo.or.jp 東京フィルハーモニー交響楽団は、毎年8月15日に同楽団副理事長を務める国民的女優、黒柳徹子の司会で、平和への祈念を込めた「ハートフルコンサート」を開催してきた。昨年はコロナ禍の影響で中止となったが、今年は感染防止対策を徹底させ第31回が開催される運びとなった。 指揮は同楽団桂冠指揮者の尾高忠明、ゲストとしてベテラン歌手、由紀さおりが出演する。今回は1960年代にNHKで放送されていた音楽バラエティ番組『夢であいましょう』で黒柳徹子が協働した作曲家「中村八大」が第2のテーマだ。中村といえば、〈上を向いて歩こう〉(英題は「SUKIYAKI」)で日本人として初めて全米ビルボードヒットチャート1位に輝いたポップス界の雄だが、実は青島に暮らした少年時代、ラジオから流れてきたドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」に胸打たれて音楽家を志したという秘話がある。コンサートでは、中村の功績をたどりつつ、哀しみをこらえて前に進もうとする名曲〈上を向いて歩こう〉と彼の転機となった「新世界より」のほか、中村と並ぶポップスの大家いずみたくの人気曲〈夜明けのスキャット〉、ドヴォルザークの「わが母の教えたまいし歌」(オーケストラ演奏)ほかもとりあげる。 ユニセフ親善大使として世界の紛争地域の実情と向きあう黒柳の平和希求のトークも説得力に満ちている。終戦の日は「ハートフルコンサート」に出かけて平和のありがたみを噛みしめるとともに、コロナ禍からの再起を目指す東京フィルの真摯な姿勢にぜひ触れてほしい。クリストファー・ハーディ大谷康子 ©Masashige Ogata由紀さおり黒柳徹子尾高忠明 ©Martin Richardson
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