eぶらあぼ 2021.8月号
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32piaNA 西本夏生 & 佐久間あすかNatsuki Nishimoto & Asuka Sakuma/ピアノデュオCDは本当に嬉しい」 2台ピアノ作品「スリー・フォー・トゥー」op.145は“西本夏生&松本あすか(佐久間の旧姓)に捧ぐ”とされ、1台で演奏する連弾作品「カプリッチョ」op.146 は“piaNAに捧ぐ”と表記された。 西本「『スリー・フォー・トゥー』は2台ピアノ用作品としては驚くほどにキャッチー。一方『カプリッチョ』は、軽めなものが多い連弾作品へのアンチテーゼなのか、とても技巧的な作品です」 piaNAが弾き続けてきた「協奏曲」(ピアノリダクション版)op.30、ラテン・ジャズを取り入れた「“マンテカ”によるパラフレーズ」op.129、キャッチーかつアカデミックな「シンフォニエッタ」op.49も収録。佐久間「何度演奏しても、気付いていない仕掛けがまだありそうな作品ばかり。声部の繋がりやコード進行の複雑さなど、宝探しのように読み取れるものは多いですが、シンプルにかっこいいな、と楽しんでいただきたい。このCDを通じて、ジャンルの垣根を超えて、みなさんの音楽観が豊かになるようなお手伝いができれば嬉しいです」カプースチンから捧げられた2作品、満を持して世界初録音!取材・文:飯田有抄 歯切れの良いリズム、ジャジーなコード進行、技巧的なパッセージ。ロシアの作曲家ニコライ・カプースチン(1937−2020)の音楽は、ときにクラシック、ときにジャズにカテゴライズされ、ジャンルの境界線上を行き来する。作曲家は昨年7月にモスクワにて他界したが、生前のカプースチンと交流を続けていた「piaNA」(ピアーナ)が、追悼アルバムとして4手のための作品集『1122』を、BRAVO RECORDSよりリリースした。piaNAは西本夏生と佐久間あすかによるピアノデュオ。カプースチンが彼女たちのために書き下ろした2作品が収録されている。西本「piaNAはカプースチンの4手用作品を演奏するために、2010年に結成しました。モスクワのご自宅を訪ねて、ご本人に初めてお会いしたのは11年です。奥ゆかしくて温かい方でした」 クラシックともジャズとも見なされることについて、カプースチン本人はどう感じていたのだろうか。自身もジャンル横断的な活動を続けている佐久間は、その質問を本人にぶつけた。佐久間「『ジャズではないと思う』と言うんですね。『でも、僕は学校を卒業してから一度もクラシックは弾いていない』とも。真顔でジョークを言う方だったので、どのくらい本心かわからなかったけれど(笑)」 演奏を聴いてもらい、メールのやりとりを続け、スペイン留学中だった西本はその後も訪問を続けた。そうした交流の中で、カプースチンは2012年に彼女たちのために作品を書き下ろした。西本「『2曲もできて、君たちに弾いてもらうのを待っているんだよ』とメールが来ました。すごく驚いたけれど、感謝を伝えたくて、私たちはすぐにコンサートで世界初演し、その後もブラッシュアップを続けてきました」 さらに思いを形にすべく進めたのが、このアルバム制作だ。しかしその完成を待たずして、カプースチンはこの世を去った。西本「タイトルの『1122』はカプースチンの誕生日にちなんでいます。クラウドファンディングによって、カプースチンを大好きな方々と一緒に制作できたこと『1122 ニコライ・カプースチン4手のためのピアノ作品集』/piaNA1. スリー・フォー・トゥー  ~2台ピアノのための3部作 作品145 2. 連弾のためのカプリッチョ 作品146 3. ディジー・ガレスピーの”マンテカ”によるパラフレーズ 作品1294. 2つの楽章からなる協奏曲(ピアノ連弾版) 作品305. シンフォニエッタ 作品49 ※1,2 世界初録音BRAVO RECORDS BRAVO-10002 ¥3300(税込)Proleクラシックピアニストとして独自の歩みを進み続ける二人、西本夏生、佐久間あすかによる女性ピアノデュオユニット。互いに違うスタイルを持ちつつもその刺激を共有し、まるで1人で弾いているかのようにシンクロするその演奏は、ピアノを2人で弾くということの本当の面白さを聴くものにも体感させる。2012年には、ニコライ・カプースチンの4手作品のみに焦点を当てたアルバム『piaNA plays Kapustin』をフランスArtist Label社よりリリース。カプースチンが曲を献呈した、世界で唯一のピアノデュオである。

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