eぶらあぼ 2021.8月号
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©Priska Ketterer302021 セイジ・オザワ松本フェスティバル二人のマエストロに聞くロワ』などはかなりの繊細さが求められますし、音色や情緒に細かな注意を払う必要があります。ドイツものなどの重厚な音楽を主に演奏しているオーケストラでこれを作るのは時間がかかるのですが、日本のオケは俊敏に反応してくれます。その背景には日本の繊細で洗練された文化があり、日本人はすでにそのような感性を持ち合わせているのではないかと思っています。それにSKOは小澤さんのもと、こうしたレパートリーで素晴らしい演奏を残していますから、私が付け加えることは何もないかもしれません」 彼はストラヴィンスキーにも特別な思いを抱いている。 「ジュネーヴ音楽院でディプロマを取得する際にストラヴィンスキーを演奏して賞賛され、1958年にその審査員の方がシェフを務める楽団で『火の鳥』を指揮して以来、切っても切り離せないレパートリーになっており、ほぼすべての作品を演奏してきました。ストラヴィンスキー本人にも会いましたし、私は今、ジュネーヴの彼ゆかりの場所に住んでもいます。むろん彼は20世紀の最も重要な作曲家ですが、ピカソ同様に人生の最後まで新たなスタイルを追い求めた点にも魅了されますね」 パンデミック下でも「音楽は欠かすことのできない重要なコンテンツであり、人々にはそれが必要だと思っている」と語るデュトワ。我々は“SKOとのフランスもの”というこの最高のコンテンツを大いに楽しみたい。シャルル・デュトワ Charles Dutoit/指揮取材・文:柴田克彦 2年ぶりに開催される今夏のセイジ・オザワ 松本フェスティバルは、シャルル・デュトワと鈴木雅明が初登場するのが大きな話題だ。ある意味対照的とも言える二人が、サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)のポテンシャルをいかにして引き出すか、興味は尽きない。SKOの印象、小澤征爾との関わりなどについて両者に話を聞いた。 世界的名匠シャルル・デュトワは今回待望の初登場。だがマエストロ小澤との付き合いは長い。 「1981年から存じ上げています。タングルウッドでは毎年夏に語り合う機会がありましたし、ボストンでお会いしたり、私が東京で指揮するとき楽屋に来てくださるなど、思い出はたくさんあります。小澤さんのことは人間的にも音楽的にも心から尊敬していますので、この有名なフェスティバルにお招きいただいたことをとても嬉しく思います」 サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)のイメージも「小澤征爾そのもの」と語る。 「DVDや録音などで何度も聴いていますが、タングルウッドで小澤さんの音楽作りを見てきた私としては、まさに彼そのものだと感じています。もちろん日本をベースにした楽団の中では最高峰であり、非常に洗練された精緻なオーケストラ。一度振ってみたいと思っていましたので、生で接するのが楽しみです」 今回は、ラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」、ドビュッシーの「海」と「牧神の午後への前奏曲」、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」が並ぶ、まさしく「ザ・フランス(&ロシア)」「ザ・デュトワ」というべきプログラムだ。 「4曲とも有名なマスターピースで、美しい曲ばかり。夏という季節にもピッタリなので、日本の皆さんに必ずや喜んでいただけると思っています。しかもこれらは小澤さんが得意にしている作品。彼と私は音楽の作り方に似ている面があります」 加えて「フランスものは日本人や日本のオーケストラに合っている」と話す。 「日本のオーケストラのプロフェッショナリズムにはいつも驚いています。フランスもの、特に『マ・メール・日本のオーケストラにはフランスものが合っています

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