25 そんな奨学生の成果披露コンサートは、同時に若い音楽家たちの貴重な出会いの場でもある。安田「今年はコロナの影響でないそうなのですが、例年は懇親会などでお話しする機会もあって、すごく輪が広がると感じます。ここで知り合ったお友だちに伴奏していただいたこともありますし、皆さんの演奏を聴いて感動して、刺激にもなります」五十嵐「私は前回スカラシップコンサートが開催された2019年に、自分の出番のほかに四人の方の伴奏もさせていただいたんですけど、同時に何人もの人と弾くと、たとえば同じヴァイオリンで同じ曲を弾いても、人によって本当に違うんだなということを実感することができました。自分もそこから学んで、いろいろアイディアが湧いて、成長できたかなと思います。みんなで鴨川をサイクリングしたり、一緒にラーメンを食べたりしたのも、とっても楽しかったです(笑)」櫃本「すでに活躍して広く名前の知られている方も出演するのですが、あ、あの子知ってるわって話しかけて仲良くなったり。これがコンクールだったら、ちょっとぎすぎすするかもしれません(笑)。それと私は大阪府出身なので、京都でこういうコンサートがあるのは、関西の子にも刺激を与えてくれていいなと思っています。大阪人として」 これまでロームの本拠地・京都でのみ開催されていたこのコンサートが、今年は初めて東京でも開催される。また、全10公演はオンライン配信でも視聴可能。若い音楽家たちの演奏からあふれる刺激を、東京でも、自宅でも。未来を担う逸材たちが繰り広げるドラマティックな三重奏取材・文:宮本 明 クラシック界の将来を担う若い音楽家たちが次々に登場するガラ形式のコンサートが、「ローム ミュージック ファンデーション スカラシップ コンサート」だ。ローム ミュージック ファンデーションが支援する奨学生たちが出演するコンサートで、2013年にスタートした。今年初回の公演でメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番を演奏するヴァイオリン安田理沙、チェロ櫃本瑠音、ピアノ五十嵐薫子の三人に聞いた。安田「メンデルスゾーンというと明るく颯爽というイメージだと思うんですけど、この曲は短調で始まることもあって、とても奥深い、葛藤だとか、人間のいろんな感情が動いていく感じがします。第3楽章のようにメンデルスゾーンらしい軽やかさもあり、終楽章はドラマティックに情熱的に進んでいく、とても魅力的な作品だと感じています」櫃本「私はじつは楽譜とちゃんと向き合ったのは初めてでした。まずメロディの大きさを感じます。とくに第1楽章は最初のメロディがチェロで出てくるので、美味しいなと(笑)。チェロにぴったりだと思うので、めっちゃ楽しみです」五十嵐「終楽章の爆発感というか、どんどん最後に向かって広がっていく感じが好きです。なにより、三人が対等な作品だと思います。楽譜を見ていても、ここのヴァイオリンいいな、ああこのチェロ好き! と思えるので、お二人の演奏もとても楽しみです。二人を引き立てる部分は引き立てて、ごりごり弾かないようにと思っています」 ピアノ三重奏の魅力を訊ねてみると、「三人それぞれがぶつかり合う感じ」と五十嵐。ピアノ四重奏や五重奏だと、音楽の構造的にも「ピアノ対弦楽器」という性格が強いし、実際の現場でも、弦のメンバーがボウイングのアップ/ダウンを話し合っているのも楽しそうに見えて、それをうらやましく眺めているしかないピアニストは、ちょっとした疎外感を感じるのだとか。一方で弦楽器奏者の側からは、「ピアノ三重奏は弦楽器の音とピアノの音が混じるのが楽しいのですが、ピアノが入ってくると、とくに私はチェロなので、音程の取り方がけっこう難しくなって、そういうところはチャレンジングです」(櫃本)と、弦の生理だけで弾くのではうまくいかない、この編成ならではの苦心も教えてくれた。 安田、五十嵐は国内で、櫃本はパリで学んでいる。奨学金の給付は、「レッスンや国内外のコンクール、講習会など、勉強したいと思ったときに躊躇したり我慢したりすることなく参加することができる。選択肢が広がったのがなによりもありがたい」と口を揃える。Prole安田理沙2017、2019年度奨学生若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール第2位、シンガポールヴァイオリンフェスティバルコンペティショングランプリなど、国内外の数々のコンクールに入賞。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学に入学(飛び入学)。現在、桐朋学園大学大学院音楽研究科に在籍中。櫃本瑠音2018、2019年度奨学生第66回全日本学生音楽コンクール大学の部第1位。2017年日本音楽コンクール第4位および岩谷賞(聴衆賞)受賞。2018年ビバホールチェロコンクール第2位、聴衆賞受賞。現在、パリ地方音楽院大学院に在籍中。五十嵐薫子2018、2019年度奨学生日本音楽コンクール第3位、最も印象的な演奏に贈られる三宅賞、ピティナ・ピアノコンペティション特級銅賞ほか数々のコンクールで優勝、入賞。2017年桐朋学園大学を首席で卒業。室内楽も積極的に行っている。
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