eぶらあぼ 2021.7月号
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86CDCDCDブルックナー:交響曲第8番/佐渡裕&トーンキュンストラー管朝は薔薇色に輝き/福井敬ARCS/土橋庸人&山田岳シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番&第21番/多おおの紗於里ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調(ハース版)佐渡裕(指揮)トーンキュンストラー管弦楽団プッチーニ:《トゥーランドット》より/レオンカヴァッロ:《道化師》より/ヴェルディ:《リゴレット》より、《オテロ》より/R.シュトラウス:《ばらの騎士》より/ワーグナー:《ニュルンベルクのマイスタージンガー》より 他福井敬(テノール) 市川敏雅(バス)現田茂夫(指揮) 京都市交響楽団びわ湖ホール声楽アンサンブルラッヘンマン:コードウェルのための礼砲/福井とも子:doublet Ⅲ/ファーニホウ:(まったく)時間がない/中谷通:2_1/64_1/ルシエ:Criss-Cross土橋庸人 山田岳(以上ギター)シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番・第21番多紗於里(ピアノ)収録:2019年10月、ウィーン(ライブ)エイベックス・クラシックスAVCL-84117~8(2枚組) ¥2200(税込)ディスク クラシカ ジャパンDCJA-21047 ¥3300(税込)コジマ録音ALCD-126 ¥3080(税込)ナミ・レコードWWCC-7945-6(2枚組) ¥3300(税込)「響きに身を浸す」という言葉が自ずと浮かんでくる。佐渡裕とウィーンの手兵によるブルックナー第8番は、佐渡のもつ雄大なスケール感とポジティブなエネルギーが楽団に伝播。約85分、各所でタメを作りながらも推進力が横溢して停滞感はなし、往年の名盤もかくやというスタイルの快演が実現した。力強く豪快な金管とティンパニ。濃密に歌い込む弦の響き。クライマックスの轟然たる音響から繊細な木管のフレーズまで、紛れもないウィーンの音色に満たされているのも魅力だ。終結の引き締まった「ミレド!」。一拍おいて湧き上がる歓声。この中心に佐渡がいることのすばらしさ。(林 昌英)英雄的でノーブルな黄金の声と豊かな表現力で日本の重要なオペラ公演に欠かせない存在であるテノールの最盛期の歌唱を、本人とも縁の深い日本屈指のオペラ劇場・びわ湖ホールを舞台に相性抜群の京都市交響楽団との共演で録音。クラウドファンディングで資金を募り、コロナ禍でライブ感満載のセッションを実現させた奇跡の一枚。表題の《マイスタージンガー》の栄光を目指す若き騎士や《リゴレット》の公爵、《ばらの騎士》の歌手など朗々たる美声から、《オテロ》やヴェリズモ作品のドラマティックな重い声まで、11人の「熱血漢たち」を痛快に歌い分けていて実に見事。(東端哲也)皆が知るはずの「ギター」はここで土橋庸人と山田岳により聴き手にとってほとんど未知の領域を提示させられた。収録曲は全5曲、ここでは歌の抒情性や感傷性というものはきれいさっぱりと排除され、その即物的な音響の可能性が徹底的に追求される。奇抜な奏法とテキストの朗読が既存の物語的文脈を解体するラッヘンマン、特殊な調弦がまったく独特の音響世界を現出させるファーニホウ、2台のギターが1分間にそれぞれ1Hzずつ厳密に調弦を変化させながらドローン(持続)音を生み出し音のうなりを発生させるルシエ他…。聴いてもらうしかないが、音楽の可能性と自由さに気付かされる稀有な一枚。(藤原 聡)国際的なキャリアを積むピアニスト、多紗於里のアルバム第3弾。ラヴェル作品集とシューマン作品集に続いて取り組んだのは、シューベルトの最後の2つのソナタ。いずれもスケールの大きな第20番・第21番である。第20番では、楽章内の感情の起伏の激しさ、楽章間のキャラクターの大きな違いを、多紗於里は音楽的に俯瞰・把握しながら、思い切ったアタックと柔らかなタッチのコントラストで聴かせる。第21番は安定したテンポ設計の中に繊細な緩急を効かせ、晩年のシューベルトの世界を丁寧に構築する。ベーゼンドルファーModel275の豊潤な響きがたっぷりと伝わる録音も秀逸だ。(飯田有抄)CD

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