39下野竜也(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団20世紀の抒情とダイナミズムがよみがえる文:江藤光紀第343回 定期演奏会 7/28(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp 邦人作品を面白く聴かせてくれる下野竜也が今回のプログラミングを通じて浮かび上がらせるのは、1930年代から40年代のアメリカと日本だ。 バーバーの「弦楽のためのアダージョ」は36年に書かれたクァルテットの第2楽章を弦楽合奏曲に編曲したもので、38年にトスカニーニがニューヨークで初演して有名になった。沁みるようにひたひたと迫ってくる音楽で、いつしか著名人の葬儀などで用いられるようになった。交響曲第1番は35年から翌年にかけて作曲され、戦時中には改訂版も作られている。ダイナミックでのびやかな第一部、緊張感あふれる第二部、抒情的な第三部、変奏形式による第四部と、交響曲の構成を単一楽章、20分ほどに凝縮させた。 ヨーロッパの伝統を咀嚼し、自らの抒情性や旋律性をアメリカ的な平明さで発揮したバーバーに対し、当時日本の作曲界において頭角を現していたのが伊福部昭。「日本狂詩曲」「土俗的三連画」といった管弦楽曲を経て、初めて取り組んだ大規模な作品が「ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲」だ。42年に初演された後、スコアが空襲により焼失したが、90年代になってパート譜が発見された。代表作「シンフォニア・タプカーラ」などのメロディーが聴こえてくるほか、ピアノの打楽器的な用法など、当時としてはモダンな書法も大胆に取り込んでいる。 独奏は小山実稚恵。小山は下野の指揮で2017年にこの曲を取り上げており、凄まじい気迫で鍵盤を叩く姿は、今でも筆者の記憶に鮮やかに蘇ってくる。あの興奮が再び!銀座ぶらっとコンサート #161 アンサンブル天下統一 ~夏の陣~凄腕弦楽トリオの熱いステージ文:宮本 明8/24(火)13:30 王子ホール 6/26(土)発売問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp 名前はユニークだけれど極め付きの本格派。読売日本交響楽団コンサートマスターの長原幸太(ヴァイオリン)、読響ソロ・ヴィオラ奏者の鈴木康浩、ルトスワフスキ国際チェロ・コンクール第1位で元フランス国立ボルドー・アキテーヌ管弦楽団首席の中木健二(チェロ)という名手3人による弦楽三重奏団「アンサンブル天下統一」。2014年、帰国した中木が、出身地・愛知県岡崎市シビックセンターからレジデント・アンサンブルの結成を請われて誕生した。同郷の天下人・徳川家康にあやかり、地方を拠点に全国を音楽で結びつけるべく名乗りを上げたというのが命名の由来だ。19年の東京初公演(Hakuju Hall)から2年。いよいよ銀座に登場する。江戸幕府を樹立した家康の都市改造計画第一弾で生まれた、400年以上も東京のど真ん中の街だ。 三者が繊細に調和しながらも個性がスリリングに対峙する弦楽三重奏は、四重奏よりもソリスティックな魅力に溢れているが、ややもすると見過ごされがち。作品も18世紀後半の数十年間に集中していて、いわばバロックのトリオ・ソナタと古典派の四重奏の谷間にひっそりと咲くユリのような存在。プログラムは、最盛期を代表するハイドンの変ロ長調op.53-2(ピアノ・ソナタop.37-2の編曲)、やや遅れてそれを成熟した芸術の域に高めたベートーヴェンのハ短調op.9-3、そして20世紀フランスの粋人が、新古典主義の視点で往時を振り返ったようなフランセの一作。弦楽三重奏の歴史を凝縮した夏の午後。左より:鈴木康浩、中木健二、長原幸太小山実稚恵 ©Hideki Otsuka下野竜也 ©Naoya Yamaguchi
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