eぶらあぼ 2021.6月号
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92外や、舞踏と関係ない日本のアーティスト達がサクッと自分の作品の一要素として扱い始めたのだ。 たとえば川口隆夫『大野一雄について』は「大野一雄の公演記録映像を完全コピーする」というコンセプト。外側の模倣から本質へ迫る。ベルリンのチョイ・カファイ『存在の耐えられない暗黒』は、なんと「土方巽の霊を呼び出して新作ダンスを依頼する作品」である。ちょっと前なら、「ん? なめてんのか?」と言われそうな作品だが、これが意外に出来が良く、世界でも評価されているのだ。 こうした外部からの、いわば乱暴な手法が舞踏から新たな魅力を引き出している。じつは黎明期の舞踏は、西洋文化から流行り物まで貪欲に取り込んでいた。猥雑さを呑み込む器の大きさは、舞踏の本質のひとつなのだ。 坊主頭で白塗り……といった外見上のスタイルではなく、「身体の真実を探る」という思考法として、舞踏は現在も日本のコンテンポラリー・ダンスに脈々と生きている。日本というガラパゴス環境の中でだが、独自の多様性を生んでいる。 舞踏の先駆者達は、多様性とともに外の世界に出て生き抜く競争力も持っていた。これからの日本のダンスは、多様性を武器に羽ばたくか、あるいは仲間がいて居心地のいい日本国内に引きこもるか、そのどちらかに分かれていくだろう。そこへ「外部からの自由な発想の作品群」が襲いかかってくるだろうけれどもね。第80回 「外部からの乱暴なアプローチが、新しい血を廻らせる」 なんと本連載は80回を数え、100回が見えてきた。苦しいコロナ禍でも本誌を出し続け、読み続けてくれている皆さんに、心から感謝したい。 さて前回書いたばかりのインドではコロナが猛威を振るい、えらいことになっている。3月にオレが関わった日印国際共同ダンスプロジェクトの作品がインドで上演され、日本にも配信されたのだが、公演日が1ヵ月ずれていたら上演はかなわなかったかもしれない。綱渡りの日々である。スタッフの皆の安全と健康を祈る。 そんなさなか、オレはあるトークショーに出演した。 TRUエキシビション「舞踏出来事ロジー」のライブ配信である。 TRUは「TOKYO REAL UNDERGROUND」のこと。アンダーグラウンドとして始まった舞踏を、東京の本当の地下で踊ったり展示したりしようというものだ。残念ながら緊急事態宣言でオンライン配信になってしまった(8/15まで視聴可能)。 「舞踏出来事ロジー」はその一環で、舞踏の歴史を概観する出来事史を作ったのだが、オレも協力・寄稿している。 とはいえオレは一度この依頼を断った。なぜなら、舞踏には「自分がいちばんわかっている」と自負している面倒くさい方々が山ほどいるので、巻き込まれたくなかったからである。 しかしこの「舞踏出来事ロジー」は、舞踏家一人ひとりに深く関わって沼にはまってしまうのではなく、「舞踏が社会にどのように受容されていったか」という客観的な視点からまとめる「ありそうでなかった視点」の企画だったのでお受けした。 トークはTRUの飯名尚人と溝端俊夫、イラストの石原葉、そしてオレ。話している横で舞踏家の今貂子(いま・てんこ)のライブパフォーマンスが「展示」されるという趣向だ(敬称略)。 舞踏は命がけで追求している人が多いので、日本では長いことおいそれとは新しいアプローチをしづらい空気があった。しかし2010年頃から徐々に海Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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