34悪あくはら原 至(打楽器)バッハとクセナキスを軸に多様な音世界をアルバムに凝縮取材・文:宮本 明Interview さまざまな種類の打楽器を演奏してその多様な魅力を伝えるマルチ・パーカッショニスト悪原至。 「打楽器奏者の中には一つの楽器に特化している方も多いですが、『本職』は定めていません。特定の楽器に重点を置くか、分け隔てなく演奏するかは、打楽器奏者としての個性のひとつだと思います」 注目の新譜はバッハとクセナキスを軸にしたアルバム。加藤昌則とアンナ・イグナトヴィッチ(ポーランド)の同時代作品を合わせた。 「選曲の際、テーマやコンセプトは決めませんでした。制限のない選曲にこそ、奏者の個性やそのときの意識が反映されると思うのです。結果として、クセナキス以外は、教会の中で聴きたくなるような、旋律の美しい作品が集まったように感じています」 ヴィブラフォンで演奏したバッハが新鮮だ。独特の長い余韻の響き。 「ヴィブラフォンでバッハに取り組んだのは初めてです。長い余韻が、とくに第1楽章アダージョにマッチするのでは、と考えて無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番BWV1001を選びました。なかなかの挑戦でした。ヴィブラフォンはペダルを踏むと叩いたすべての音が響き続けてしまうため、余韻をマレットで消したり、繊細なペダリングでコントロールする必要があるのです。ある程度納得いくようになるまでは半年以上の鍛錬が必要でした」 クセナキスは博士論文の研究テーマでもあった。 「研究家のマキス・ソロモスは、クセナキスの作品はアポロンとディオニュソスの性格を併せ持つと述べています。高度に洗練された知識により緻密に作り上げられた構造が、ときに暴力的なまでに本能に訴えかけてくるのです。収録したオーボエと打楽器のための『ドマーテン』(1976)と3台のジャンベのための『オコ』(1989)は、クセナキス作品の時系列に置くと興味深い発見があります。『ドマーテン』は打楽器アンサンブルの傑作『プレイアデス』の2年前の作品。『プレイアデス』の最大の魅力は複雑な連符による音の銀河のようなテクスチュアですが、その先駆けのようなパッセージが現れます。一方晩年の『オコ』は、『ルボン』のパッセージが引用されるなど、過去の作品の特徴的なテクスチュアが盛り込まれています。それをジャンベに演奏させることで、アフリカの打楽器であるジャンベの可能性を最大限に引き出そうとしたとも言えます」 打楽器音楽の魅力は、多彩な音色が生み出す世界観にあると説く。 「聞こえてくる音に耳を傾け、その音空間に身を委ねる。経験したことのない世界観を感じることができるはずです」仲道郁代 ベートーヴェンへの道ベートーヴェン 鍵盤の宇宙 第3回「ベートーヴェンとクリムト」様々なアプローチで楽聖に迫る人気シリーズ文:長井進之介 日本を代表するピアニストである仲道郁代。幅広いレパートリーを誇り、常に意欲的な試みで聴衆に感動を与え続ける彼女の現在の活動の中でも、とりわけ革新的なプロジェクトが「ベートーヴェン 鍵盤の宇宙」ではないだろうか。全6回で、仲道が特に大切にしている作曲家であるベートーヴェンの生涯と音楽を、美術や文学、哲学などの偉人たちと対比させて新たな角度から読み解いていく。 第3回は、ベストセラー著書をいくつも発表している文筆家で、文化芸術プロデューサーとしても活躍中の浦久俊彦と7/3(土)15:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 https://www.hakujuhall.jp©Taku Miyamotoともに、世紀末ウィーンの天才画家で、傑作「ベートーヴェン・フリーズ」を遺したクリムトを通してベートーヴェンの作品に迫る。今回の演奏曲はテーマの斬新さにふさわしく、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でもとりわけ構成やアイディアの革新的な第13番「幻想曲風」、第24番「テレーゼ」、そして第28番の3曲。 新たな発見と感動に満ちた時間を、快適な空間のHakuju Hallでぜひご堪能いただきたい。CD『悪原 至 × 打楽器 II』コジマ録音ALCD-7262¥3080(税込)
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