29transit Vol.14 ティモシー・リダウト(ヴィオラ) ~詩人の恋~ヴィオラで探るドイツ・ロマン派の“愛”文:林 昌英6/4(金)19:00 王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp 近年、若い世代のヴィオラの名手が世界各地で登場している。その代表的な存在と目される実力と人気を備えるのが、ロンドン出身のティモシー・リダウトである。1995年生まれ、20歳前後で複数の名門コンクールを制するなど、すでに世界を舞台に活躍。渋いイメージのあったヴィオラだが、彼の音は実に明朗。力強い右腕と豊かなヴィブラートによる音色は温かく心地よく、常に歌心も感じさせる。そのリダウトが6月、若い才能を紹介する王子ホール「transitシリーズ」に登場。ジョナサン・ウェアのピアノを伴い、待望のリサイタルを開催する。 演目はブラームスの2つのソナタと、シューマンの歌曲集「詩人の恋」のヴィオラ編曲版という、師弟関係の大作曲家たちの名作。いわばドイツ・ロマン派の魂をたどりながら、ヴィオラという楽器の真髄をも明らかにする、堂々たるプログラムだ。ブラームスは晩年の作ながら瑞々しい歌心豊かな2曲で、リダウトの豊潤な音で心洗われるような体験になるに違いない。シューマンのロマンあふれる名歌曲はリダウト自身による編曲で、「極上の、奇跡的と言っていいほどの音楽。音域と物憂げな性格がこの楽器に完璧にフィットする」と意気込みを語る。人の声に最も近いといわれるヴィオラだけに、歌詞はなくともその心情の奥底まで表現できるだろうし、あえてメインとして聴かせることでリダウトの強い意欲も伝わってくる。ヴィオラとロマン派の魅力に浸れる、愛好家ならずとも体験するべき一夜である。©Ting-Ru Lai尾高忠明(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団北欧情緒あふれる濃密な音のドラマ文:飯尾洋一第634回 定期演奏会 トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉6/25(金)19:15、6/26(土)14:00 すみだトリフォニーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp ウイルス禍以来、すっかり旅から遠ざかってしまった人が大半だろう。遠く離れたヨーロッパの空気を伝えてくれるのは、もっぱら音楽の役割になったのかもしれない。新日本フィルの第634回定期演奏会トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉で組まれたのは北欧音楽プログラム。日本を代表するマエストロ尾高忠明が、気鋭の若手ピアニスト髙木竜馬と共演し、冴え冴えとした北欧情緒を伝えてくれる。 曲はグリーグの組曲「ホルベアの時代より」とピアノ協奏曲イ短調、そしてシベリウスの交響曲第1番。グリーグのピアノ協奏曲で独奏を務める髙木は1992年生まれ。2018年に開催された第16回エドヴァルド・グリーグ国際ピアノコンクールで優勝を果たしたほか、数々のコンクールで優勝した新星である。ウィーンと日本を拠点に広範な活躍をくりひろげ、NHK総合テレビのアニメ『ピアノの森』で雨宮修平のメインピアニスト役を務めたことでも話題を呼んだ。清新なグリーグを期待できそうだ。 グリーグのピアノ協奏曲のあまりに有名な冒頭部分は、作曲者の故郷ノルウェーのフィヨルドに流れ落ちる滝を表現するとよく言われる。同様にシベリウスの交響曲第1番もフィンランドの雄大な大自然を想起させる楽曲だ。後のシベリウス作品とは一味違った、チャイコフスキー風の重厚な響きも聴きどころ。尾高が新日本フィルとともに濃密な音のドラマを描いてくれることだろう。髙木竜馬 ©池上夢貢尾高忠明 ©Martin Richardson
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