eぶらあぼ 2021.5月号
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33東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団R.ワーグナー 楽劇《ニーベルングの指環》ハイライト特別演奏会 ~飯守泰次郎 傘寿記念~マエストロが築き上げるワーグナー演奏の集大成文:江藤光紀5/16(日)14:00 東京文化会館問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp 日本人がワーグナーのライブ演奏に比較的簡単に接することができるようになったのは、そんなに古いことではない。長大でパワーの必要なその音楽は、ひと昔前まで踏破自体が困難と考えられていたのである。 現在のワーグナー演奏の活況ぶりを振り返るとき、ドイツでの歌劇場の経験が豊かで、バイロイト音楽祭の制作にも参画した飯守泰次郎がもたらしたものは極めて大きかったと言えるだろう。21世紀に入り、飯守は後に桂冠名誉指揮者に就任することになる東京シティ・フィルと、「オーケストラル・オペラ」と銘打った演奏会形式のワーグナー上演に取り組んだ。この経験はその後、新国立劇場のオペラ芸術監督として世界に伍するプロダクションを作り上げた成果にも大きく寄与したはずである。 そのマエストロもめでたく傘寿ということで、東京シティ・フィルが《ニーベルングの指環》のハイライト特別演奏会を開催する。年輪を重ねたコンビの“指環”が戻ってくるだけで興味津々だが、今回はシュテファン・グールド(ジークフリート)やトマス・コニエチュニー(アルベリヒ、ヴォータン、グンター)、アルベルト・ペーゼンドルファー(ハーゲン)といった世界で活躍する第一級のワーグナー歌いが勢ぞろい。また、ブリュンヒルデには近年脚光を浴びるダニエラ・ケーラーが起用されている。公演の名誉監督にはバイロイト音楽祭の総監督でワーグナーのひ孫にあたるカタリーナ・ワーグナーがクレジットされ、総本山の後押しのもと飯守の偉業を祝福するにふさわしい布陣と言えるだろう。辻井伸行 × 三浦文彰 ARKシンフォニエッタ 〈モーツァルト&ベートーヴェン〉若手スターたちの競演で二大作曲家の名協奏曲を披露文:林 昌英6/4(金)19:00、6/5(土)14:00、6/8(火)14:00 東京オペラシティ コンサートホール6/9(水)19:00 サントリーホール問 チケットスペース03-3234-99996/6(日)14:00 大阪/フェスティバルホール問 ABCチケットインフォメーション06-6453-6000 https://avex.jp/classics/arksinfonietta2021/※公演によりプログラムが異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 昨秋実現した、ピアノの辻井伸行とヴァイオリンの三浦文彰を中心とする音楽祭「サントリーホール ARKクラシックス」では、名演奏家たちが集い、ソロから協奏曲まで、ウイルス禍の不安を吹き飛ばすような快演が連続した。殊に両名の協奏曲は、彼らの繊細な美音、瑞々しくも深い表現が発揮された名演だった。特筆すべきは三浦の指揮で、ヴァイオリン協奏曲は自らの弾き振り、ピアノ協奏曲は指揮者として辻井を絶妙にサポート。鋭く的確な動きで各パートの表現意欲を引き出す指揮ぶりで、流れもバランスも万全、瑞々しい演奏を構築し、今後の指揮活動への期待も高まったのである。名プレイヤーたちで構成された室内オーケストラ「ARKシンフォニエッタ」も、常設団体と比べても何ら遜色ない、盤石の演奏を作り上げていた。 そして今夏、「辻井伸行 × 三浦文彰 ARKシンフォニエッタ」が東京と大阪で開催され、彼らの協奏曲の再演を体験できることになった。曲目は昨年と同じく、ヴァイオリンはモーツァルト第3番とベートーヴェン唯一の傑作、ピアノはモーツァルト第21番とベートーヴェン第5番「皇帝」。ウィーン古典派二大作曲家の4つの名協奏曲を、カップリングを替えて2曲ずつ、5公演でたっぷり聴かせる。同演目をあえて継続することでより深奥まで追求し、完熟の演奏を実現したいという意欲が強く感じられる。昨秋体験できなかった聴衆にとっては嬉しい好機だし、追体験の聴衆には若きスターたちの覚悟を見届ける大切な場となる。左:辻井伸行 右:三浦文彰 ©Yuji Horiシュテファン・グールド ©Kay Herschelmann HResトマス・コニエチュニー ©Igor Omuleckiアルベルト・ペーゼンドルファーダニエラ・ケーラー ©Admill Kuyler飯守泰次郎 ©金子 力

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