eぶらあぼ 2021.5月号
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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン文:林 昌英 「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)」は、2011年以来サントリーホールが毎年“開園”する、室内楽の祭典。昨年は通常の公演は断念したものの、ライブ配信での開催を実現し、活動を絶やすことはなかった。CMG10周年かつホール開館35周年でもある今年、改めてブルーローズの親密な空間で実演を聴ける喜びは大きい。例年より長い22日間で28公演の中からここでは4つのシリーズをピックアップしたい。ライジングスターと世界的奏者たちの名演が咲き誇る麗しの庭園 CMGの顔ともいうべきシリーズが、ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲を1団体が完奏する「ベートーヴェン・サイクル」である。演奏内容や曲の組み合わせ方に各団体のカラーが明確に打ち出され、偉大な作品群の尽きぬ魅力が浮かび上がる、名物企画である。   今年の担当はイスラエル出身のエルサレム弦楽四重奏団。活動25周年を迎え、世界中の主要な舞台に登壇し続ける名クァルテットだ。ヒューマンな熱気と機能性を兼ね備えた演奏スタイルをもち、この時代にこそ聴きたいベートーヴェンを堪能させてくれるに違いない。作曲者生誕250年だった昨年には開催できなかった本サイクル、例年以上に熱い思いが充満する5公演となる。 ブルーローズの瀟洒な雰囲気の中、フォルテピアノをフィーチャーするシリーズで、18〜19世紀、欧州各地の製作者の手による4つの名器が使用される。プログラムはほぼ2人・3人のアンサンブル作品で構成されており、広い視野から楽器を巡る時代性と名作の新たな姿を明らかにしていくという、奥行きのある企画となっている。 ◆エルサレム弦楽四重奏団  ベートーヴェン・サイクル ◆フォルテピアノ・カレイドスコープ  今回は4公演が予定され、いずれも各楽器の代表的名手がそろう。Ⅰはスーアン・チャイ(フォルテピアノ)&佐藤俊介(ヴァイオリン)&鈴木秀美(チェロ)によるブラームス・プロ。Ⅱは小川加恵(フォルテピアノ)とクレシミル・ストラジャナッツ(バスバリトン)&水谷晃(ヴァイオリン)でシューベルト&シューマンの歌曲など。Ⅲは渡邊順生(フォルテピアノ)が酒井淳(チェロ)と組んでベートーヴェンのチェロ作品集。Ⅳは川口成彦(フォルテピアノ)が原田陽(ヴァイオリン)、新倉瞳(チェロ)とともにフォーレ&サン=サーンスのトリオなどを聴かせる。  没後25年の武満徹を中心に据えて、ピアニスト小菅優が「愛・希望・祈り」をテーマとする2公演をプロデュースする。武満の作品と、Iはメシアンが収容所の中で書いたと伝えられる「世の終わりのための四重奏曲」、Ⅱはストラヴィンスキー「兵士の物語」組曲、ユダヤ人の親友の死を悼んだショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番などが組み合わせられる。武満作品を参照点に、両世界大戦期の仏露の名作を見つめ直し、不安の時代に求められる音楽の力を再確認する二夜。内外の若き名手たちが、心からの演奏でそのメッセージを表現する。 ◆小菅 優プロデュース  武満 徹「愛・希望・祈り」

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