eぶらあぼ 2021.5月号
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19ギターを愛して成長してきたんだろうなと。それ以来1年に1回は必ず彼のリサイタルを聴きに行ってるんだけれど、どんどん表現力も増していって、彼のことをとても尊敬してるんです。今回は自分でアレンジしたピアソラなどを弾くわけですが、彼はアレンジもすごくうまい。今から楽しみです」鈴木「ピアソラは生誕100年。ナルバエスの『皇帝の歌』は、原曲がジョスカン・デ・プレの『千々の悲しみ』(編注:帰国した天正遣欧使節が秀吉の前で演奏したと言われる)なのですが、ジョスカンは没後500年。生誕120年のロドリーゴも。アニヴァーサリーの作曲家たちです」大萩「荘村さんはアルベニスでがっちりと固めてらっしゃって、これは鉄板だろうなと思います。宮崎の実家の母が荘村さんの大ファンで。荘村さんの『ギターを弾こう』という番組を見てギターを始めたぐらい。自分がギターと出会ったのもその影響なんです」荘村「NHK教育テレビね。スペインから帰ってきてすぐ。今回の『朱色の塔』や『入江のざわめき』は、番組でも弾いていたレパートリーなんです。そのあと弾かない時期もあって、最近また弾き始めた」福田「『入江のざわめき』は、僕も14歳の時に荘村さんの演奏を聴いたことがあるもんね」鈴木「あ! テレビで弾いてましたよね。俺も見てた!」福田「たいていのギター小僧は見てんのよ」荘村「久しぶりに弾いてみて、ああそうか、みたいな。この年になってやっと、表現の仕方が全然違ってきてる。全部ピアノ曲の編曲だけど、やっぱり歌なんだよね。歌わせることが今回のテーマです」 気心知れた4人の会話からは、和気あいあいとした雰囲気がこんこんと湧き出てくる。鈴木がその源泉をひとことに集約してくれた。「福田先生と清志さんが、毎年集まって楽しそうにしている場所が、1年に1回、地球上にある。すごく素敵なことだと思います」 世代を超えた4人の、うらやましいような良い関係。だからこそ、ギター・フェスタが絶対に楽しい!名手たちの演奏に浸り、ギターの魅力を味わい尽くす、心躍るギターの祭典取材・文:宮本 明 写真:ぶらあぼ編集部 「Hakuju ギター・フェスタ」が帰ってくる。今年のテーマは「原点回帰」。コロナ禍で中止になった昨年のテーマを引き継いだ。原点にかえって、ソロを中心に据えた構成。今回の座談会のために集まった、荘村清志、福田進一、鈴木大介、大萩康司の4人に、フラメンコ・ギターの沖仁を加えた5人のソロ・プログラムが軸となる。4人がプログラムについて語った。 8月20日のフェスタ第一夜はPart1に大萩、Part2に福田が登場する。福田「初めて会った大萩くんは日に焼けて真っ黒な、やんちゃ坊主だった。今回彼が弾く藤井敬吾さんの『羽衣伝説』は、沖縄の旋律による幻想曲。彼の十八番中の十八番で、打楽器奏法がすごいんですよ。大ちゃん(鈴木大介)のギターを壊してしまうほどの……」鈴木「そうだっけ? 忘れちゃった」大萩「マスタークラスで、僕は聴講生だったんですけど、大介さんのギターをお借りして」福田「返ってきたら調子悪いって(笑)」大萩「まだ高校2年生で、力が余っちゃって」鈴木「遠慮なかった(笑)。福田先生は、スペインの3拍子の舞曲をまとめたんですよね。2拍目に重心のあるスペイン起源の3拍子の舞曲」福田「そうそう。大萩くんが弾くブローウェルの『ラ・グラン・サラバンダ』に引っ掛けて。クラシック・ギターと3拍子というのは、切っても切れない関係だと思ってます。集めると結構たくさんある。モーリス・オアナの『ティエント』は、僕はパリで4、5回、オアナ先生自身にレッスンを受けることができた。武満徹さんもそうなんだけど、本人から習っているのは、すごく自信を持って弾ける。若い頃に録音してるんですけど、それ以来弾いてないので、今回弾いてみようと思いました」 翌日の第二夜は、Part1が鈴木、Part2が荘村。荘村「大ちゃんの演奏を初めて聴いた時、ギターを楽しんで弾いているのをすごく感じたんです。ずっとProle荘村清志(左)9歳からギターを始め、1963年、来日した巨匠ナルシソ・イエペスに認められ、翌年スペインに渡りイエペスに師事。欧州各地でリサイタルを開き、好評を博す。帰国後、69年の日本デビュー・リサイタルが成功。2019年にはデビュー50周年を迎え、実力、人気ともに日本を代表するギター奏者としてますます充実した活動を展開している。福田進一(中央左)1981年パリ国際ギターコンクールでグランプリ優勝。以後、国内外で演奏活動を展開。後進の指導にもあたる。40年にわたり、リサイタル、主要オーケストラとの共演を続け、2017年からはウィーン・フィル元コンサートマスターのライナー・キュッヒルとの演奏活動を開始するなど、意欲的な演奏姿勢は世界中のファンを魅了している。鈴木大介(中央右)マリア・カナルス国際コンクール第3位など数々のコンクールで入賞。海外でも多数の公演を行う。内外の演奏家からの信頼も厚く、クロード・ボリング、渡辺香津美、須川展也らと共演を重ねている。作曲家の武満徹から「今までに聴いたことがないようなギタリスト」と評されて以後、新しい世代の音楽家として常に注目され続けている。大萩康司(右)パリのエコール・ノルマル音楽院、パリ国立高等音楽院で学ぶ。1998年、ハバナ国際ギター・コンクールにて第2位及び審査員特別賞を受賞。ジャズ・ギタリストとの共演や、舞踏家とのコラボなど、ジャンルを超えた活動を展開し、国内での精力的な活動に加え、キューバほか世界各地に活躍の幅を広げている。2020年には、演奏活動20周年を迎えた。

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