1088月+夏の音楽祭(その2)の見もの・聴きもの2021年8月の曽そし雌裕ひろかず一 編【ご注意】 公演データ部分の冒頭にも記述しましたが、新型コロナウイルスの影響で、詳細内容が一向に発表されない「夏の音楽祭」が多数存在しています。そのため音楽祭名と開催期間しか紹介できなかったものもありますが、逆にそのような形でも、より多くの音楽祭に言及できた点についてはご了解いただけると幸いです。なお、公演内容の変更、公演の中止・延期等は今後も発生すると思われますので、最新情報は各音楽祭・劇場のHP等で念のためご確認いただくことをお勧めいたします。----------------------------------------●【8月の注目公演】(通常公演分) こんな新型コロナウイルスの感染状況下の今年に限っては、8月にまで通常公演を行うオーケストラや劇場はほとんどない。そんな中で「音楽祭」以外の注目公演として本稿で◎印を付けたのは、何と、ケルンのフィルハーモニーにおけるソコロフのピアノ・リサイタル(これとても2020年4月から二度延期された代替公演)しかない。本来、8月下旬に行われるはずのペトレンコ指揮ベルリン・フィルの開幕演奏会などは当然注目公演になろうが、来シーズンの予定がいつ発表されるかの告知も、今のところまだ行われていない。●【夏の音楽祭】(8月分)〔Ⅰ〕オーストリア 「ザルツブルク音楽祭」は、発表通りに開催されるとすれば、そのほとんどが注目公演。昨年からの継続公演も多いが、制作に人数を要するオペラやネルソンス=ウィーン・フィルのマーラー交響曲第3番、ムーティ=ウィーン・フィルのベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」のような合唱付大曲が感染防止策を講じた上で演奏される意味は少なくないだろう。室内楽のソリストにもクレーメル、ゲルネ、カプソン、ソコロフ、グリゴリアン、シフ、コパチンスカヤ、キーシン、ポリーニ、内田光子、ムター等々、さすがザルツブルクと思わせる豪華な布陣が用意されている。個人的にはメッツマッハー指揮のノーノのオペラ「イントレランツァ(不寛容)1960」。そんな現代もの面白くないだろう、というご意見に敢えて異論を唱えさせていただくと、夏のザルツブルクで現代オペラを演奏するウィーン・フィルの合奏力・表現力はウィーンでの通常オペラ公演とは全く違う次元の抜きん出た世界だと経験的に断言できる。ぜひご注目を。 「ブレンゲンツ音楽祭」ではオロスコ=エストラーダ指揮ウィーン響によるワーグナー「ラインの黄金」が要注目。古楽音楽祭の定番「インスブルック古楽音楽祭」は本稿執筆時にはまだ詳細未定だが、内容は相変わらず充実したものとなるだろう。「シューベルティアーデ」は室内楽系の音楽祭として魅力たっぷり。「グラーフェネック音楽祭」では、細川俊夫が自作のヴァイオリン協奏曲を自ら指揮する(トーンキュンストラー管)演奏会が興味深い。ビシュコフ=チェコ・フィルの客演にも注目。〔Ⅱ〕ドイツ 昨年中止になった「バイロイト音楽祭」は現段階(4月4日現在)でも中止の報はない。とすれば、目玉は先月号でも記述したとおり、同音楽祭初の女性指揮者オクサナ・リーニフによる「さまよえるオランダ人」プレミエ。また、次期「リング」の指揮者に予定されているインキネンは、今年は特別編成(本来とは別演出)での「ワルキューレ」の指揮を任された。とはいえ、フォークト、グロイスベック、ダヴィドセン、テオリンなど出演歌手は豪華。また、演奏会形式でのティーレマン指揮の「パルジファル」、ネルソンス指揮の2回のワーグナー特別演奏会というのも大注目企画。 「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」ではコパチンスカヤやポゴレリッチのリサイタルがハンブルク、ムターのリサイタルがリューベックで聴ける。シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の東の隣接地域で行われる「メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭」も、ハグナーによるバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの演奏会等、注目すべき演奏会がしばしば登場する。「ボン・ベートーヴェン音楽祭」は古楽系指揮者を中心としたベートーヴェンの全交響曲ツィクルスが目玉公演。中でもサヴァール指揮ル・コンセール・デ・ナシオンの「第9」が一番の注目。「ラインガウ音楽祭」では、ベルリン・フィルの首席オーボエ奏者アルブレヒト・マイヤーが指揮と独奏を兼ねるオーボエ・コンサートが面白そう。その他、「ブレーメン音楽祭」、「ルール・トリエンナーレ」、「ルール・ピアノ・フェスティバル」といった企画力ある内容で楽しませてくれる音楽祭の詳細が未発表というのは大変残念だ。〔Ⅲ〕スイス スイスは定番の「ルツェルン国際音楽祭」の他、先月に続いて「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」を掲載した。「ルツェルン」は、相変わらず、シャイー、バレンボイム、ネゼ=セガン、ゲルギエフ、ハーディングなどの有名指揮者が勢揃い。中でも、ハーディングがロイヤル・コンセルトヘボウ管を振ってブルックナー7番を演奏するというのはちょっと新鮮な組み合わせか。「グシュタード」はピアノのシフ、グリモー、アリス・紗良・オットやピリス、ヴァイオリンのファウストやコパチンスカヤ、チェロのガベッタなど、人気アーティストを連日登場させる壮観なラインナップ。〔Ⅳ〕イタリア イタリアではローマ歌劇場の夏の定番「カラカラ浴場跡」での公演内容が未だに発表されず残念。しかし8月は「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」が、予定通り開催されれば内容は充実。ロッシーニの比較的珍しいオペラが今年も新しい演出で3本並ぶ(モーゼとファラオ、ブルスキーノ氏、イングランドの女王エリザベッタ)。いずれも高水準の演奏が期待できる。また、今年は「フローレス音楽祭25周年記念」と銘打ったガラ・コンサートもある。なお、「ヴェローナ野外音楽祭」は、舞台制作者や出演アーティストのウィルス感染からの安全を図るため、本来の演出を全部取り止め、ビデオ投影等の新しい演出で上演される。〔Ⅴ〕フランス〔Ⅵ〕ベネルクス 先月掲載できなかった古楽系随一の夏の音楽祭「ボーヌ・バロック音楽祭」の詳細が発表されたので、7月中の音楽祭ではあるが、その内容を記述した。さすがにエキルビー、スピノジ、クリスティ、アラルコン、ローレル、フュジェ、ダントーネなどの有名古楽系指揮者が名を連ねている。だが、フランスの「サブレ音楽祭」やオランダの「ユトレヒト古楽祭」、ベルギーの「フランドル古楽祭(AMUZ)」など他の高名な古楽音楽祭の詳細が未発表なのは残念。ちなみに「フランドル古楽祭」はジョスカン・デ・プレ没後500年記念を謳っている。〔Ⅶ〕イギリス〔Ⅷ〕北欧〔Ⅸ〕東欧 イギリスでは「プロムス」と「エディンバラ国際フェスティバル」の詳細が残念ながら未発表。発表されている「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」の8月公演では、セミ・ステージ形式で行われるワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(ティチアーティ指揮)と、同じティチアーティがエイジ・オブ・エンライトメント管を振るコンサートが興味深い。その他「グラインドボーン」と趣を同じくする「カントリーハウス・オペラ・フェスティバル」の一つ「ロングボロー・フェスティバル・オペラ」(本稿では初紹介)は、8月はもう公演期間の最後数日間に過ぎないが、6月・7月に上演される4本のオペラの中では、ここでもワーグナーの「ワルキューレ」が要注目。ちなみに、この音楽祭では2019年からワーグナーの「ニーベルンクの指環」ツィクルスが始まっている。 スウェーデン「ドロットニングホルム・オペラ・フェスティバル」の今年のメインはヘンデルの「アグリッピーナ」。ルーマニアのブカレストで開催される「ジョルジェ・エネスク・フェスティバル」は「コンクール」と「音楽祭」の隔年実施だが、今年は「音楽祭」の年にあたっており、8月中のラトル指揮ロンドン響に続いて、翌9月にかけてもメジャー・オーケストラ、メジャー・アーティストが次々に登場する。 (曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)
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