eぶらあぼ 2021.5月号
103/125

100CDSACDCDチャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」/フェドセーエフ&チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラIn A Landscape/LEO佐藤聰明:水を掬えば月は手に在り・FOUJITAフランスの夜会/黒沼香か恋れんチャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」ウラディーミル・フェドセーエフ(指揮)チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ(旧モスクワ放送交響楽団)J.S.バッハ:アルマンド/ダウランド:涙のパヴァーヌ/藤倉大:竜/八橋検校:みだれ/ドビュッシー(冷水乃栄流編):「版画」より〈塔〉/坂本龍一(篠田大介編):1919/ライヒ:Electric Counterpoint Ⅲ.Fast/ケージ:In a Landscape 他LEO(箏) 沢井一恵(十七絃箏) 森梓紗(低二十一絃箏) 伊藤ハルトシ(チェロ) 角野隼斗(ピアノ)佐藤聰明:水を掬えば月は手に在り、FOUJITA阿部加奈子(指揮) 工藤あかね(ソプラノ) 松平敬(バリトン) 吉村七重(二十絃箏) 中村仁美(篳篥) 石川高(笙) 花田和加子 川口静華(以上ヴァイオリン) 甲斐史子(ヴィオラ) 松本卓以(チェロ) 杉山洋一(指揮) 仙台フィルハーモニー管弦楽団 篠﨑史子(ハープ)ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調、ラ・ヴァルス、亡き王女のためのパヴァーヌ/ドビュッシー:「ベルガマスク組曲」より〈月の光〉/プーランク:ナゼルの夜会黒沼香恋(ピアノ)大友直人(指揮)東京交響楽団エイベックス・クラシックスAVCL-84114 ¥3300(税込)日本コロムビアCOCQ-85523 ¥3300(税込)コジマ録音ALCD-127 ¥3080(税込)収録:2020年3月 ミューザ川崎シンフォニーホール(ライブ) 他オクタヴィア・レコードOVCT-00183 ¥3520(税込)フェドセーエフの「悲愴」は、どこまでも温かい。諦念や絶望の淵に突き放すことはない。50分超、広大な流れの中で、すべての音が、豊かに息づき、聴く人を包み込む。9分かけて歌い込む第2楽章の感動の深さたるや。第4楽章は「アダージョではなくアンダンテ」と90年代にいち早く主張したマエストロ。今回は11分半をかけながら、どこにも停滞感はない。結尾の低弦が途切れるまで、確かな「歩み」が続く。自らの最期もかくありたいと嘆息するほどに。示されたのは、巨匠が辿り着いた遥かな境地。そして、これほど感情の襞に入り込む演奏が、いま存在し得ることの希望。 (林 昌英)冒頭に置かれた、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番の「アルマンド」から、いきなり衝撃的だ。1音1音が包含する揺らぎによって、良く知る傑作が全く異なる空気感を纏い、“バッハでありつつ、バッハでない何か”に変容させてしまう。ジャンルを超越した活動で邦楽界に新風を吹き込む、若き箏の革命者・LEO。当盤は、ダウランドからドビュッシー、ケージ、ライヒ、坂本龍一に、先駆者・八橋検校や現代日本の藤倉大まで、編曲と箏のオリジナル作品を共鳴させる、多彩かつ自在なセレクトで臨んだ。確かな技巧と魅力的な美音、新たな表現を切り拓く先鋭性。ここには、箏の未来がある。(笹田和人)佐藤聰明作曲の二本の映画音楽を収録した。いずれも“音の余白”を大切にしており、ゆったりと寡黙な音楽からは独自の香りが匂いたつ。中国映画『掬水月在手』の音楽は杜甫の漢詩に基づく歌曲集で、唐代の楽器である笙や篳篥のパセティックな響きを貫いて、ソプラノ(工藤あかね)とバリトン(松平敬)が時空間を超えた異界のお告げのように鳴り渡る。ベル・エポックと翼賛体制を駆け抜けた藤田嗣治を描いた『FOUJITA』の音楽は、時代に翻弄されるその生涯を深い哀愁で彩った断章風の作品。音は映像と並び立ちつつ自立する強度も備えており、聴き手のイマジネーションの飛翔を誘発する。(江藤光紀)1998年生まれのピアニスト黒沼香恋のデビュー盤。国内外のコンクールで上位入賞を重ね、活躍が期待されている。昨年のコロナ禍では、大友直人指揮、東京交響楽団による無観客ライブのソリストに抜擢され、ラヴェルのピアノ協奏曲の独奏を披露した。本作にはその全3楽章のほか、ドビュッシー、ラヴェル、プーランクの独奏曲を収めた。圧巻はプーランクの「ナゼルの夜会」。ファーストアルバムとは思えないほどの堂々たる弾きっぷりで、成熟した響きと、フランスものらしい洒脱さで、「前奏曲」から「終曲」までの全11曲のユニークなキャラクターを描き切る。  (飯田有抄)CD

元のページ  ../index.html#103

このブックを見る