eぶらあぼ 2021.4月号
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40尾高忠明(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団円熟味溢れる名匠のタクトで聴くモーツァルトとマーラー文:林 昌英第631回 定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉4/8(木)19:00 サントリーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp 昨年から相次ぐ指揮者変更で、多くのオーケストラのピンチを救ったひとりが尾高忠明である。現在は大阪フィルハーモニー交響楽団音楽監督として腕をふるうほか、各地の楽団に客演を重ねて、常に優れた演奏を聴かせる名匠である。この1年ほどの代演では、持ち前の安定感、温かく雄大な響きに加えて、演奏の熱気がさらに高まっているようにも感じられる。音楽界の危機に際してさらに情熱を燃やすマエストロの存在感は増す一方である。 4月の新日本フィルの定期も、残念ながら上岡敏之の来日は叶わなかったが、尾高がプログラム変更なしでの代演を引き受けた。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」、マーラーの交響曲第4番という名曲プログラムで、同楽団の能力を存分に引き出してくれるはず。マーラー演奏がまだ少ない現況で、ソプラノ独唱付きながら編成はやや小さめの第4番は、実現しやすい部類に入ることも変更なしの理由だろう。いまや貴重となったマーラー・サウンドを、尾高が作り上げる円熟の演奏で味わえる待望の機会となる。 協奏曲のヴァイオリン独奏も代役だが、若きカリスマと目される俊英、山根一仁の登場は当公演の嬉しい目玉となる。近現代もののシャープかつ没入した演奏が印象に残る山根が、モーツァルトの傑作からどんなメッセージを引き出すのか。ソプラノは予定通り、砂川涼子が出演。可憐な美声と容姿をもち、藤原歌劇団や新国立劇場で活躍中のヒロイン砂川の歌うマーラーもまた貴重で、幸福感あふれる聴きものになるはず。N響ゴールデン・クラシック 2021GWはチャイコフスキーの音楽に浸ってみては?文:笹田和人5/3(月・祝)15:30 東京文化会館問 サンライズプロモーション東京0570-00-3337 https://sunrisetokyo.com 名指揮者と気鋭のソリスト、NHK交響楽団の秀演で、珠玉の名曲を楽しむ「N響ゴールデン・クラシック」。毎年、ゴールデンウィークの時期に開催され、チケット完売が続く大人気シリーズだ。今年は、知的で緻密な解釈で知られる高関健の指揮で、チャイコフスキーを特集。交響曲第5番と、2016年のヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールで入賞を果たした、若手実力派の周防亮介をソリストに迎えて、ヴァイオリン協奏曲が披露される。 チャイコフスキーの傑作の森にあって、高い人気を誇る交響曲第5番。全4楽章に共通した主題を扱う循環形式を特徴とし、冒頭でクラリネットが奏する「運命の主題」が、自在に姿を変えて登場することから、「チャイコフスキーの運命交響曲」とも称される。緩徐楽章に置かれた美しいホルン・ソロなど、聴きどころは満載。高関のタクトは、知性と感性を巧みに織り込みつつ、この作品の魅力を語り尽くしてくれるはず。 そして、これに先立ち演奏されるヴァイオリン協奏曲。溢れるようなロマンティシズムと華麗なヴィルトゥオジティを併せ持ち、数ある協奏曲作品の中でも、屈指の名曲に位置づけられている逸品だ。ソロを務める周防は1995年京都生まれ。名匠マキシム・ヴェンゲーロフのもとで腕を磨き、国内外の登竜門で実績を重ねている、まさに“旬”の俊英。コロナ禍の閉塞感を吹き飛ばすような、瑞々しく、希望に溢れた快演を体感できよう。山根一仁 ©K.Miura砂川涼子 ©Yoshinobu Fukaya尾高忠明 ©Martin Richardson周防亮介 ©TAKUMI JUN高関 健 ©Masahide Sato

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