eぶらあぼ 2021.4月号
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1147月+夏の音楽祭(その1)の見もの・聴きもの2021年7月の曽そし雌裕ひろかず一 編【ご注意】 公演データ部分の冒頭にも記述しましたが、新型コロナウイルスの全世界的な感染拡大のため、本欄で扱っている欧米の劇場・演奏団体についても、依然として今後の公演スケジュールが不確定な状況になっています。すでに開催予定が発表されている「夏の音楽祭」についても、今後、内容が大幅に変わったり、中止・延期になるケースも少なくないと思われます。最新の詳細な公演内容については、ご面倒ですが、必ず各劇場等のウェブサイトでご確認いただきますようお願いいたします。----------------------------------------●【7月の注目オペラ公演】(通常公演分) 今年は新型コロナウイルスの影響で、公演スケジュールが大幅に変更・中止・延期となった劇場も少なくないが、7月も通常公演を予定しているのは、ベルリン州立歌劇場、ケルン歌劇場、ライプツィヒ歌劇場、フランクフルト歌劇場、チューリヒ歌劇場、ジュネーヴ大劇場、ナポリ・サンカルロ歌劇場、スペインのテアトル・レアルとリセウ大劇場、パリ・オペラ座(ガルニエ宮)、シャンゼリゼ劇場、モネ劇場、フランドル歌劇場など決して少なくはない。その中で注目公演として目につくのは、先月号でも取り上げたベルリン州立歌劇場のプッチーニ「西部の娘」(パッパーノ指揮)やオーストリアの現代作曲家ゲルト・キュールによる新作「楽園(Paradiese)」を上演するライプツィヒ歌劇場といったところだろうか。●【7月の注目オーケストラ公演】(通常公演分) 7月の注目オーケストラ公演はほとんど音楽祭の中での公演ばかりで、通常公演としては、ビシュコフとウェルザー=メストが指揮するライプツィヒ・ゲヴァントハウス管が残っているくらい。例年この時期にシュターツカペレ・ドレスデンが演奏する国際ショスタコーヴィチ・ターゲの特別演奏会(今年は6月23日予定)もキャンセルになってしまったのが残念。●【夏の音楽祭】(7月分)〔Ⅰ〕オーストリア まずは「ザルツブルク音楽祭」。7月に恒例の「Ouverture Spirituelle」シリーズのテーマは昨年に引き続き「Pax」(平和)。というよりコロナ禍中の縮小開催で昨年カットされてしまったこのシリーズを、ほぼ同内容で今年の音楽祭に持ち越した、というのが実情。グラジニーテ=ティーラ指揮のブリテン「戦争レクイエム」、タリス・スコラーズのジョスカン「ミサ・ロム・アルメ」ほか、Meta4、イブラギモヴァ、サヴァール、レヴィット、ヘレヴェッヘ、クルレンツィス、コパチンスカヤといった各分野のアーティストたちが「平和」や「祈り」をモチーフとした演奏会を繰り広げる。7月中に始まるオペラは、クルレンツィス指揮のモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」とウェルザー=メスト指揮のR.シュトラウス「エレクトラ」。メストは、ウィーン・フィルのコンサートで「ばらの騎士」組曲も演奏する。他にピション指揮ピグマリオンのモーツァルト「ハ短調ミサ」、ツェートマイヤー独奏のバッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ/パルティータ集」、レヴィットのピアノによるベートーヴェン「交響曲第3番」(リスト編曲)も聴きもの。湖上オペラで有名な「ブレゲンツ音楽祭」の湖上での演目は一昨年から続く「リゴレット」(昨年は音楽祭中止)。祝祭劇場でのオペラも昨年上演されるはずだったボーイトの「ネローネ」を仕切り直し上演。ボチャベラ弦楽オーケストラというのは南アフリカのアンサンブル。〔Ⅱ〕ドイツ 「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」では、すでに任期を終えたキリル・ペトレンコが、満を持して選曲したワーグナー「トリスタンとイゾルデ」を携えてバイエルン州立歌劇場に“里帰り”。これに加えて「サロメ」と「ニュルンベルクのマイスタージンガー」も指揮。これではチケットがまず取れない!! ペトレンコ以外では、ゲルギエフ指揮の「ラインの黄金」やヤング指揮の「タンホイザー」も魅力的だが、プリンツレゲンテン劇場でカリーディスの指揮する「イドメネオ」やメッツマッハー指揮のブラウンフェルス「鳥たち」、メータ指揮の「アイーダ」(演奏会形式)なども見落とせない。30日の特別コンサートは文字通りの豪華ガラ。 「バイロイト音楽祭」は今のところ(3月4日現在)中止の報もなく、プログラムも発表されているがチケットの売り出しについては未確定状態。開催されれば、音楽祭史上初の女性指揮者となるオクサナ・リーニフによる「さまよえるオランダ人」が大注目公演。ザルツブルクの「サロメ」役で一躍名を馳せたグリゴリアンがゼンタを歌うというのがまた憎い。昨年予定されていたインキネン指揮の「リング」は来年に持ち越しになったが、今年はその予告編とも言うべき「ワルキューレ」が彼の指揮で単独上演される(演出は本来の演出家とは別)。 「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」ではキールのシュロスで行われるソコロフのピアノ・リサイタルに注目。ちなみにソコロフは「ラインガウ音楽祭」にも出演する。ラインガウでは、ニケ指揮ル・コンセール・スピリテュエルでヘンデルの「水上の音楽」と「王宮の花火の音楽」、ベルリン古楽アカデミーでバッハの「ブランデンブルク協奏曲」全6曲という「名曲コンサート」も用意されている。ドイツで行われるロッシーニ中心の玄人好み音楽祭「ロッシーニ・イン・ヴィルトバート」も健在。バーデン・バーデンの「夏の音楽祭」ではニューヨークで全く活動できないネゼ=セガン指揮のメトロポリタン歌劇場管が客演。〔Ⅲ〕スイス 例年通り「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」という山岳スキーリゾート地で行われる代表的2大音楽祭を掲載した。今年に限っては、後者でピアニストの藤田真央が協奏曲にリサイタルに大活躍。それ以外でも、指揮でゲルギエフ、パッパーノ、マケラ、ハーディング、ピアノでピリス、シフ、ヴァイオリンでヤンセン、ヴィオラでタメスティ、チェロでマイスキーなど人気有名アーティストが続々登場する。〔Ⅳ〕イタリア イタリアではローマ歌劇場の夏の定番「カラカラ浴場跡」での公演が未発表で残念だが、「フィレンツェ五月音楽祭」が、メータ、ノセダ、ムーティと豪華な指揮陣を揃えて際立つ。詳細日程不明ながら玄人好みの「マルティナ・フランカ音楽祭」は今年も要注目。「ヴェローナ野外音楽祭」は言わずもがなの有名音楽祭。〔Ⅵ〕フランス 古楽系随一の夏の音楽祭である「ボーヌ・バロック音楽祭」の詳細も残念ながら未発表。それだけでなく、ヘレヴェッヘが音楽監督を務める「サント音楽祭」や魅力ある古楽オケがしばしば登場する「モンペリエ音楽祭」などもスケジュールが未発表。それに対して「エクサン・プロヴァンス音楽祭」はラトルとヘンゲルブロックを中心的指揮者として、前者の指揮する「トリスタンとイゾルデ」、後者の指揮する「フィガロの結婚」に加え、コスキー演出の「ファルスタッフ」や「金鶏」(リムスキー=コルサコフ)、マルッキ指揮の現代オペラ、サーリアホの「イノセンス」、コパチンスカヤの語りとヴァイオリンによるシェーンベルク「月に憑かれたピエロ」(一昨年のベルリン公演では「能」の摺り足を取り入れた意欲的演出)やソプラノのハンニガンとの共演、新進気鋭のマケラ指揮パリ管や阿部加奈子の振る現代作品(B.エル=トゥルクの「ポイント・ゼロの女」)等々、大変充実した内容だ。「オランジュ音楽祭」にはバルトリの演奏会の他、シャイー指揮スカラ座管のヴェルディ「序曲集」が要注目。〔Ⅹ〕東欧 東欧圏からは、プラハの東約170キロのリトミシュルで行われる「スメタナ・リトミシュル・ナショナル・フェスティバル」でのチェコ・フィルの公演を取り上げてみた。会場のリトミシュル城は、ユネスコの世界遺産にも登録されている名勝地。すぐ隣にはスメタナの生家もある。本文ではチェコ・フィルの公演しか記述していないが、音楽祭全体はオペラの上演から歌曲・室内楽までと幅広いので、次のURLでホームページを確認いただきたい(https://www.smetanovalitomysl.cz/en/)。(以下次号)(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)

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