eぶらあぼ2021.3月号
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29室内楽ホール de オペラ 佐藤美枝子のオペラ「蝶々夫人」ハイライトオペラの醍醐味が満載された極上の舞台文:宮本 明3/20(土・祝)14:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 https://www.triton-arts.net コンサート・サイズに凝縮した上演時間とヨーロッパの劇場を思わせる馬蹄形の空間。声の魅力を間近に堪能できる第一生命ホールの「室内楽ホール de オペラ」に、「佐藤美枝子のオペラ『蝶々夫人』ハイライト」が登場する。佐藤美枝子の題名役のほか、登場人物をピンカートン(井ノ上了吏)、スズキ(与田朝子)、シャープレス(久保田真澄)の主要4役のみに絞り込み、アリアや重唱の間を朗読(女優・山本郁子)でつなぐハイライト版にまとめたのは音楽監督・ピアノの服部容子。ピアノ伴奏による演奏会形式(字幕付)で、シンプルな舞台セットや衣裳は用いるものの(演出:中村敬一)、華美な演出や豊饒なオーケストラ・サウンドを削ぎ落として姿を現すのは、プッチーニの音楽そのものであり、丸裸にされたオペラ歌手の生身の声だろう。オペラの醍醐味が詰まった舞台になるはずだ。 まだ十代の少女ながら芯の強いキャラクターの蝶々さんに、プッチーニはドラマティックなスピントの声を求めている。類まれなレッジェーロ、コロラトゥーラ・ソプラノとして活躍する佐藤にとってこの企画が初役だ。佐藤は「ベルカント・オペラのように母音唱法でレガートに歌いつつ、言葉の立たせ方や感情の入れ方をより現実的、三次元的に。音楽を会話で繋いでいくように作り上げる感覚」でアプローチしたいと語る。キャリアとともに獲得してきた中音域の充実も頼もしい武器に、新しい、佐藤美枝子の蝶々夫人がもうすぐ生まれる。佐藤美枝子 ©武藤 章ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団マジカルなタクトが現出させる彩り豊かな音色のパレット文:江藤光紀第690回 定期演奏会 5/8(土)18:00 サントリーホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 https://tokyosymphony.jp 昨年末には「第九」2公演のためだけに来日し、2週間の待機期間を経て一年ぶりに東響のステージに立ったジョナサン・ノット。東響メンバー、そして日本の聴衆に力強いメッセージを発した。次回の来日は5月。ノットらしいひねりの効いたプログラムとなっている。まずはアダムスの「ザ・チェアマンダンス」。1987年に初演されたオペラ《中国のニクソン》に先立って、その素材を管弦楽曲としてまとめた作品だ。アダムスは初期にはミニマリズム風のリズミカルな反復をトレードマークにしていたが、本作も心地よいパルスの上で豊穣な戯れが展開される。国際情勢が緊迫する中、中国とアメリカの国交正常化の糸口となった大統領の電撃訪問を主題とした作品を取り上げるのもタイムリーだ。 ノリのよいアダムス作品の後に来るのは、男女の恋のさや当てを描いたドビュッシーのバレエ音楽「遊戯」。自由に、即興的に広がっていく音楽は、作曲家晩年の境地を反映して、なんとも格調高い色彩を帯びている。 そしてマーラーの交響曲第1番「巨人」。緊張の糸をぴんと張りながら巨大管弦楽を巧みにコントロール、透明感を保ちつつダイナミックな音響体を立ち上げるのがノット流。必死で応える東響とのコラボが、これまで見えなかった風景を現出させてきた。「巨人」でもノットのマジックは冴えわたることだろう。 アメリカらしい明快さ、フランス風の色彩感、ドイツ的な構築性…。作風は三者三様だが、管弦楽の豊かなパレットに誘惑されっぱなしの2時間となるはず。ジョナサン・ノット ©K.Miura

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