eぶらあぼ2021.3月号
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26カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団ベートーヴェンと近代作品で披露する傑出した才能文:山田治生第728回 東京定期演奏会〈春季〉3/5(金)18:00、3/6(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://japanphil.or.jp 日本フィルの3月の定期演奏会には、政府による入国制限のために来日できなくなった首席指揮者ピエタリ・インキネンに代わり、アジア出身の若手指揮者のなかで最も注目されている一人であるカーチュン・ウォンが登場する。ウォン自身、昨年3月に日本フィルと初共演する予定であったが、コロナ禍のために演奏会が中止となり、今回、あらためて日本フィルにデビューする。 シンガポール出身のウォンは、2016年のグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝。これまでに、ニューヨーク・フィル、ロサンゼルス・フィル、チェコ・フィル、読響、東響、東京フィルなどに客演し、現在、ニュルンベルク響の首席指揮者を務めるなど、国際的に活躍している。クルト・マズアに師事し、ドイツ=オーストリア音楽を得意とするウォン。今回の、ショスタコーヴィチ(バルシャイ編)の室内交響曲、R.シュトラウスのオーボエ協奏曲、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」というプログラムでは、彼の魅力を満喫することができるであろう。 また、R.シュトラウスのオーボエ協奏曲で、日本フィルが誇る首席奏者の杉原由希子がソリストを務めるのも注目である。最晩年のシュトラウスの簡潔な筆致で書かれたその協奏曲はオーボエ奏者にとって演奏至難といえる。在京オーケストラのオーボエ奏者のなかでも屈指の名手である杉原がシュトラウスの協奏曲をどのように演奏するのか楽しみだ。エスポワール シリーズ12 嘉目真木子(ソプラノ) Vol.2 ―その国に生きて詩と音楽の一体化がもたらす新発見の喜び文:柴田克彦3/13(土)17:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.com いま最も輝いているソプラノ歌手・嘉目真木子が、トッパンホールの育成プロジェクト「エスポワール シリーズ」の第2回公演を行う。彼女は、河村尚子、日下紗矢子といった実力者が名を連ねる当シリーズに選ばれた初の歌手。2010年東京二期会《魔笛》のパミーナで本格的にオペラデビューした後、《フィガロの結婚》のスザンナ、《魔弾の射手》のアガーテ等の主役や「第九」のソリスト等で活躍し、清澄な美声、緻密で深い表現力、そして舞台での圧倒的存在感で魅了している。 「オール日本歌曲」で知られざる作品の魅力を伝えてくれた19年4月のVol.1に続く今回も、創意に充ちたプログラムが目を引く。それはドイツ・リート以外の19~20世紀ヨーロッパ歌曲。ベッリーニ、ラロ、クィルター、マルティヌー、オブラドルス、グリーグ、シマノフスキ、チャイコフスキーの8人・8ヵ国の作品が並んでいる。しかも大半がめったに歌われない曲。これらを生で聴けるだけでも貴重だし、詩を深く読み込む嘉目が、異なる言語の諸作でいかなる音楽世界を生み出すのか、大いに注目される。 もう1つ見逃せないのが北村朋幹のピアノ。器楽奏者には稀な文学的センスを持つ彼の「詩と音楽」に対する洞察力が、Vol.1でも嘉目に佳き影響を与えていただけに、今回も二人にしか到達し得ない境地が創出されるに違いない。北村はこう語っている。「成功した演奏では、発音と音楽が完全に一体化し、まるで音楽がその言葉の通訳をしているように聴こえる」(トッパンホールプレスより)。本公演はまさしくそうした体験への期待に充ちている。北村朋幹 ©TAKA MAYUMI嘉目真木子 ©藤本史昭杉原由希子カーチュン・ウォン ©Angie Kremer

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