eぶらあぼ 2021.2月号
32/165

29高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団作曲家や時代の背景を映す調べが、今こそ心に響く文:飯尾洋一第341回 定期演奏会 3/26(金)19:00 サントリーホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp 東京シティ・フィルの第341回定期演奏会は、モーツァルトの交響曲第31番「パリ」とショスタコーヴィチの交響曲第8番を組み合わせたプログラムで開催される。指揮は常任指揮者の高関健。当初、この公演ではヴェルディの「レクイエム」がとりあげられる予定だったが、新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに従って、上記のように公演内容が変更された。ウイルス禍の現状を鑑みれば、ヴェルディ「レクイエム」のような大規模合唱作品が演奏困難であることはよく理解できる。 代わって演奏される両曲は対照的な性格を持っている。パリ旅行中に作曲されたモーツァルトの交響曲第31番「パリ」は溌溂とした生命力に満ち、管楽器の充実した書法が華やかな響きを生み出す。一方、ショスタコーヴィチの交響曲第8番は悲劇的な色彩の強い全5楽章からなる大作である。 同時に、両曲にレクイエム的な性格を見て取ることも可能だろう。モーツァルトは旅先のパリで同行した母親を亡くしている。モーツァルトのパリ旅行は悲しみと分かちがたく結びついている。ショスタコーヴィチの交響曲第8番はスターリングラード攻防戦のあった1943年の作品であり、戦争の悲劇や静謐な祈りを連想させずにはおかない。目下、ウイルスとの闘いを続ける私たちの心情に寄り添った、真摯な音楽体験がもたらされるにちがいない。高関 健 ©金子 力東京オペラシティ Bビートゥーシー→C 藤井玲れな南(ソプラノ)芸術家たちのミューズに視点を置いて、さまざまな愛に寄り添う文:柴辻純子2/16(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 https://www.operacity.jp 東京オペラシティの「B→C バッハからコンテンポラリーへ」にソプラノの藤井玲南が登場する。藤井は東京藝術大学、同大学院で学び、ドイツのエアフルト歌劇場、ライプツィヒ歌劇場にて研鑽を積み、ウィーン国立音楽大学を卒業した。本公演では、創作のインスピレーションを刺激した「“芸術家たちのミューズ”をテーマに、夫婦の愛、人間が抱える孤独、神への信仰や賛美に焦点をあてた」多彩な選曲で、透明感のあるのびやかな声と豊かな表現力を披露する。 シューマン夫妻の歌曲は愛を語り合い、マーラーの妻アルマの歌曲は溢れるばかりの情熱を秘めている。アルマの3番目の夫となるヴェルフェルの詩による歌曲もあり、夫婦の心の距離を仄めかす。マーラーのリュッケルトの詩による〈真夜中に〉は、藤井が「希望と力を与えてくれる」として、どうしても歌いたかった1曲。孤独や不安から解放され、光が差してくる。 フランスの現代作曲家ニコラ・バクリは、リヨンのコンクールの課題曲で初めて知ったという。彼の歌曲とメシアンが最初の妻に捧げた歌曲で、フランスの愛のかたちを描く。そして、バッハのカンタータの編曲も手がける、藤井と同世代の山中千佳子の新作も期待大だ。古事記に登場する日本最古の芸能の女神アメノウズメが題材で、作詞は藤井自身による。 「歌曲は自分の内面を掘り下げていく作業」と語る藤井。作曲家のミューズに自身を重ねたり、客観的にアプローチしたり。彼女の歌は様々な世界を拓いてくれるだろう。ピアノは本山乃弘。©Shigeto Imura

元のページ  ../index.html#32

このブックを見る