eぶらあぼ 2021.1月号
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128や世界へのネットワークをつなげるなど、現代のフェスティバルが持つインフラとしての意義と重要性を再認識する企画だった。アーティストを支えるセイフティ・ネットが脆弱な日本社会の問題をコロナ禍が浮き彫りにしたのである。 第3部はフリートーク。「ないフェス」はもともとはオレが日本各地で酒を飲みながらダンスの話をする『ダンス酔話会』のオンライン版として立ち上がった。コロナ禍を逆手に取って、オンラインでやればいいじゃん! となったのだ。すると全国に散らばる歴代の酔話会主催者の勇者たちが結集し、実現に至ったのである。中心になったのは静岡で『緑茶酔話会』を過去3回開催してくれている嶋村彩さん。そして企画内容から配信設定やチラシのデザインと配布、専用のZoom用背景作成など、“特殊能力者”が集まった実行委員(大串恭子・上池直美・伊達なつき・藤村凪沙・藤原由美(敬称略))の皆さんの活躍のおかげである。実行委員はイベントの専門家などではなく、基本一般のダンスファンの集まりなのがまた素晴らしいと思う。 パネリストの皆さん、観客・視聴者の皆さんにも感謝している。途中に音声トラブルが起こると、視聴者の皆さんから「こうしてみたら?」とアドバイスが送られてくるなど、温かいったらありゃしない。 長丁場だったが新型コロナとダンスの最前線に立ちながら、重くてそれでいてポジティブな言葉の数々に、オレも大いに元気づけられたのだった。第75回 「『最高で最悪』のオンライン・ダンス・トークフェス」 先月告知したオンライン・ダンス・トークフェス、略称「ないフェス」、無事に終了した。 「ないフェス」とはつまり、コロナ禍で本来の形では「できないフェスティバル」のことだ。緊急事態宣言から半年が経ったいまこそ、ダンスの現場の声を聞き、残しておこうという企画だ。 第1部はベルギーを代表するダンスカンパニー「ローザス」の創立メンバーである池田扶美代さんとオレの対談。第2部はオレがアドバイザーをしている4つの国際フェスティバル等のディレクター達とのトーク。第3部はフリー。 開催は11月19日だったが、この日は最高で最悪だった。なぜなら東京での新規感染者数が過去最高を更新する勢いで増え続け、まさにこの日、東京都の新型コロナの警戒レベルが最高のレベル4に引き上げられたからである。ヨーロッパでも多くの国が10月後半から11月にかけて続々と2度目のロックダウンに入っていった。これはなんとしてもクリスマスを平穏に過ごしたいという願いだろう。 「ないフェス」の主旨としてはまさに絶好の機会だが、増える感染者数と死亡者数を見ると、喜んではいられない。まさに「最高で最悪」のタイミングだったのである。 第1部の池田さんはロックダウン中のベルギー、ローザスのスタジオがある建物の中からの参加だった。安全を確認した者同士が隔離された同じ環境の中にいることを「同じバブル(泡)の中にいる」と考え、マスクなしでリハーサルをしているという。マスク着用での運動は必要な量の酸素を得られない等の悪影響が指摘されており、この「バブル方式」は世界でもスポーツなどで採用されている。それには安価で手軽なPCR検査が大前提だが、ヨーロッパでは5000円程度で可能だ。またアーティストであっても、ロックダウン中は国から給付金が何ヵ月間も支給されるなど、日本との違いは明らかだ。 第2部はダンサーの上演や創作支援、さらに教育Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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