eぶらあぼ 2020.12月号
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36©Fukaya Yoshinobu 新倉 瞳(チェロ)多彩な“ダンス”のエッセンス溢れる魅力的なアルバムが誕生取材・文:宮本 明Interview スイスを拠点に幅広く活躍する人気チェリスト新倉瞳が、「舞曲」をテーマにした新譜『ダンツァ』をリリースする。じつに楽しく、そして聴きごたえあるアルバムだ。チャイコフスキーの「眠れる森の美女」からサン=サーンスの「死の舞踏」、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」やショスタコーヴィチの「ワルツ」まで、さまざまな「ダンス」の音楽のキャラクターがいきいきと伝わってくる。 「自分でもしっくりくるラインナップ。華麗なバレエ曲から民俗的な踊りまで、すべて揃ってようやく自分だと思っているのですが、そういう選曲ができました。(オリジナルがチェロ曲以外の作品も多いが)曲に対するイメージが大事。すべてチェロで弾いて納得できる作品になりました」と手ごたえを語る。 中心に据えたのが、プーランクの「フランス組曲」(作曲者自身によるチェロ用編曲)。 「あまり弾かれませんが、大好きな素晴らしい曲。古典の舞曲に、プーランクの現代的な和声を乗せている作品で、私自身が心がけている“古いものを伝えるための新しい挑戦”というテーマにもマッチしていると思いました」 東欧系のユダヤ音楽クレズマーのジャンルでの活動も有名な彼女だが、最近では、彼らの舞踊であるイディッシュ・ダンスを自分でも踊るのだそう。 「実際に身体を動かしてみると、耳から入ってくるのとは違う情報が入ってきます。たとえば、3拍子なのに、ちょっと足をすって5拍子のような感覚でとると、途端に踊りやすくなるような音楽があるんです。グルーヴ感がとても大事」 それを感じて音楽の受け取り方も変わった。たとえばアルバム冒頭のフォーレの「シシリエンヌ」。代表的なチェロの名曲だが、いつもテンポがしっくりこない気がして、ちょっと避けていたのだそう。それが、踊りを意識することで、「なんだ。決まった正解などないのだ。感じたままに弾けばいい」と腑に落ちた。一方で、民俗的な音楽にはないクラシック音楽特有の表現ともいえる強弱の幅、とくにピアニッシモの美しさをあらためて意識することにもつながったという。 「聴いていただくたびに、様々な出会いによって私の音が形成されていることを感じてもらえる内容になったと思います」 実際、聴くたびに新しい発見があって、ヘビロテでついつい何度も繰り返し聴いてしまった。素敵な、うれしい一枚。シリーズ日本の古典 ~源氏物語初版千年~ Ⅰ サラマンカ能 その弐オルガンのサウンドと一体となり生み出す幽玄の美文:飯田有抄 伝統芸術として、もっとも長い歴史を誇る西洋のオルガン音楽と日本の能。その二つがサラマンカホールで出会い、新たな調和を生み出す。2018年に初回が催され話題を呼んだ「サラマンカ能」。いよいよ来春には、能「葵上」をメインプログラムに据えて「その弐」のステージが開かれる。今回も能楽師の辰巳満次郎が、オルガニスト・指揮者としてマルチな活躍が目覚ましい鈴木優人の奏でるオルガンとコラボレーションし、幽玄の世界を創り上げる。 源氏物語を題材とする「葵上」は、六条御息所の強い情念を描く。葵上へ2021.1/30(土)14:00 岐阜/サラマンカホール問 サラマンカホール チケットセンター058-277-1110 https://salamanca.gifu-fureai.jpの嫉妬に狂う鬼女の気品あふれる動きが見どころの能の代表作だ。また、辰巳満次郎・和磨父子の共演による新たな古典「SHISHI」では、赤と白の連獅子が鈴木の演奏とともに舞う。笛、小鼓、大鼓、太鼓の緊張感に満ちた音色が、サラマンカホールのオルガンと響き合える時、未知のエネルギーを発するに違いない。このほか、野村又三郎が登場する狂言「昆布売」、岐阜の能楽師・玉井博祜による仕舞も披露される。鈴木優人 ©Marco Borggreve辰巳満次郎SACD『ダンツァ』アールアンフィニ/ミューズエンターテインメントMECO-1060¥3000+税11/25(水)発売

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