eぶらあぼ 2020.12月号
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20 2010年ショパン国際ピアノコンクールで第1位を獲得し、アルゲリッチ以来45年ぶりの女性優勝者として脚光を浴びたユリアンナ・アヴデーエワ。あれから10年、彼女は、ショパンを“レパートリーの1つ”と位置づける、同コンクール優勝者には稀な奏者として、深化を続けてきた。 モスクワに生まれ、地元やチューリッヒ等で研鑽を積んだアヴデーエワは、コンクール優勝後も音楽に対するストイックな姿勢を貫き、J.S.バッハや古典派から、リスト、ラヴェルや現代音楽まで、広範な作品で深い洞察力を発揮。フォルテピアノでベートーヴェン、エラールのピアノでショパンの協奏曲(ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラと共演)を弾くなど、古楽アプローチへの造詣も深めている。 彼女は、真摯な探求のもと、贅肉なくして実が詰まった音と最高度の技巧で楽曲の深奥に迫り、清新な音楽を紡ぎ出す。凛とした佇まいや知的なロマンティシズムを湛えながら艶やかにして多彩なその演奏は、常に耳を惹きつけて離さない。最近特に魅了されたのは、2019年のBBCプロムス日本公演でのチャイコフスキーの協奏曲第1番。一音一音が明確にしてニュアンスこまやかな、雄弁かつ引き締まった独奏は、聴く者にこの有名曲の真価を再認識させた。 ならば当然、21年2月のリサイタルにも期待が集まる。しかも紀尾井ホール公演のプログラムが実に彼女らしい。幕開けはベートーヴェンの幻想曲 op.77。これは“傑作の森”中期の1809年に書かれた作品で、次々に楽想が変化し調性が移ろう即興性の強い音楽だ。いわば当時のベートーヴェンの多様性を一挙に味わえる興味深い1曲であり、楽聖のピアノ曲の中でも生演奏が少ない作品の真髄を知る貴重な機会ともなる。おつぎは同じく「エロイカ」の主題による変奏曲とフーガ。こちらはおなじみの旋律を用いた名作だが、序奏で主題の低音旋律が3回変奏された後に、本主題の多様な変奏が15回行われ、さらに3声のフーガが展開されるという凝った内容を有している。すなわちここではアヴデーエワの堅牢な構成力と幅広い表現力を満喫できる。  代わってはハイドンのアンダンテと変奏曲。2度のロンドン旅行の間=円熟期に生み出されたこのユリアンナ・アヴデーエワ ピアノ・リサイタル2021.2/19(金)19:00 紀尾井ホール 11/21(土)発売問 カジモト・イープラス050-3185-6728http://www.kajimotomusic.com他公演2/13(土) 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000) 11/29(日)発売2/14(日) ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080) 発売日調整中2/17(水) 王子ホール(03-3567-9990)2/21(日) 京都/青山音楽記念館 バロックザール※公演によりプログラムが異なります。ユリアンナ・アヴデーエワ(ピアノ)日本ツアー曲は、親しい人(モーツァルトとの説もある)の死をきっかけに書かれたといわれる、ハイドンには稀有の悲痛な音楽で、長大な主題が2つに分けられて交互に変奏されていく二重変奏曲となっている。これまたアヴデーエワの巧緻な表現力が生かされる上に、「エロイカ」変奏曲との比較も興趣を募らせる。そして最後はラフマニノフのソナタ第2番。技巧的かつ抒情性と情熱的なロマンに溢れたこの曲は、ピアノの大家が後年に短縮改訂した密度の濃い作品だ。ここはもちろん、アヴデーエワが根底にもつロシアン・ピアニズムと、彼女一流の理知的な構築力が相乗効果を発揮するであろう。 まるで媚のない、しかし音楽的充実度は極めて高いこのプログラムは、まさにアヴデーエワの面目躍如。鮮麗にして豊穣な“ピアノ音楽”を存分に堪能したい。 ©Sammy-Hart深化を止めない“音楽探求者”の真価を聴く文:柴田克彦

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