eぶらあぼ 2020.11月号
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44河野智美(ギター)音楽の揺るぎなく信じられる力、そして祈りを込めて取材・文:宮本 明Interview これまでにリリースしたCDがどれも高い評価を得ているギタリスト河野智美のニュー・アルバムは「アランフェス協奏曲」に「ある貴紳のための幻想曲」という協奏曲2曲のカップリング。今年1月のサントリーホールでのライブ録音だ。 「コロナの影響が出る直前でした。オーケストラはもちろん、協力してくださったみなさんと心をひとつにして実現できたステージで、その空気感が音楽にも出ていると思います。この半年で世の中の価値観は大きく変わってしまいましたが、その時の気持ちは変わりたくない、忘れたくない、そんな熱い思いをぜひ聴いてください」 ギタリストにとってもスリル満点で挑戦しがいがあると語る「アランフェス協奏曲」だが、じつはそれ以上に、ずっと魅了されてきたというのが「ある貴紳のための幻想曲」。 「とても癒されます。元になっている17世紀のガスパル・サンスのメロディにも共感できますし、それが協奏曲として壮大なスケールで楽しめる。『アランフェス』の第2楽章も素敵ですが、それよりもっと涙が出てくるような、心に響くものを感じます」 演奏から聴こえてくる豊かな歌ごころは、彼女の評価を大きく高めている特質だ。 「自分の持っているメロディの解釈、歌ごころは大切にしたいです。いろいろな楽器をちょっとずつかじってきたことが役に立っているかもしれません。私の場合、たまたま選んだ楽器がギターだったというか、音楽を優先して考えているところがあります。さまざまな音をイメージして、それをギターという楽器で表現する。6本の弦でそれをやらなければいけないので大変ですが、そうしないと立体的な音楽を作りにくい。そのイメージがある人ほど、豊かなサウンドになると思います」 現在、音楽を取り巻く環境は困難だが、だからこそ、音楽の力をあらためて確信していると話す。 「ネガティブな意見を目にして心が沈むことも多い毎日。何を信じていいかわからなくなるなかで、私はギターを弾いている時が一番癒されるし、音楽は、生きていくうえで揺るぎなく信じられるものだという思いを強くしています。聴く人にもそれを伝えたい。そんな祈りも込めて音楽に向かっています」 祈り。彼女はクリスチャンだ。つねに好奇心いっぱいで、やりたいことが多すぎて困るのだと笑う。他の楽器とのアンサンブルも大好きで、新たにヴァイオリンの礒絵里子と「デュオ・パッシオーネ」の活動もスタートした。ギタリストは明日を見つめている。近藤伸子 ベートーヴェンシリーズⅢ《熱情》&ピアノトリオの最高傑作《大公》ソナタと室内楽の名曲で作曲家像に迫る文:藤原 聡 新ウィーン楽派やシュトックハウゼン作品、あるいはバッハの演奏に触れれば分かるように、近藤伸子の見据える射程は実に広く、その演奏はオーソドックスさと先鋭さを兼備したもの。その近藤が2019年から開始したシリーズは生誕250年である2020年を意識したであろう「Kondo Nobuko Plays Beethoven」である。今まで2回開催された同シリーズ、昨年には「ハンマークラヴィーア」やピアノ三重奏曲第1番他(第1回)、「悲愴」やチェロ・ソナタ第3番他(第2回)が披露された。ピアノ・11/2(月)19:00 東京文化会館(小)問 東京コンサーツ03-3200-9755http://www.tokyo-concerts.co.jpソナタ+共演者を招いての室内楽曲という組み合わせは作曲家がそれぞれにおいてどのようにピアノを扱っているのかという興味を喚起するし、何より変化があって良い。今回の第3回目もこれを踏襲し、ピアノ・ソナタでは「熱情」をメインとし(他に第5番及び第6番)、後半にはピアノ三重奏曲第7番「大公」が披露される。共演は佐藤まどか(ヴァイオリン)と河野文昭(チェロ)。名曲を名演奏で聴く歓びが確実に約束された一夜となろう。SACD『河野智美/アランフェス』アールアンフィニ/ミューズエンターテインメントMECO-1059¥3000+税10/21(水)発売©Yoshinobu Fukaya

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