eぶらあぼ 2020.11月号
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34工藤重典(フルート)& 福田進一(ギター)初共演から41年――気心知れた二人が奏でる心地のよい音の旅取材・文:宮本 明Interview 工藤重典と福田進一。フルートとギターの名手二人のデュオ・アルバム『音の旅~夜明けのセレナーデ~』が10月にリリース。つねに楽しい二人に話を聞いた。 福田「今回のアルバムはごった煮(笑)。あまり冒険的なコンセプトはないです」 工藤「進ちゃんに任せたので、僕はよくわからないうちに曲が決まっちゃった(笑)」 福田「ひどい! 二人のレパートリーから演奏会のアンコールで弾いてきた曲や、新しく見つけた曲も含めて、気楽に聴いていただける小品集です。1曲目のヴィラ=ロボス『花の分類』から、いい空気を醸し出せたんじゃないかな。タイトルになったロドリーゴの『夜明けのセレナーデ』なんか、音楽的にも技巧的にも非常にスリリングで、よう弾いてるわ! と思います」 工藤「珍しいところでは、ドゥミヤックというフランスの20世紀の作曲家の『中世風小組曲』。シンプルでとてもきれい。あれは進ちゃんが見つけてきたんでしょ? ヨーロッパの風みたいな感じでとても心地いい」 福田「シャイドラーのソナタは、この歳で弾くかなと思うような可愛らしいメロディなのですが、でもわれわれがやるとちゃんと大人の表現になっている。そういう楽しい瞬間がけっこう何度もありました」 これが6枚目のデュオ・アルバム。41年前にパリで初共演した若き日から、けっして豊富とは言いがたいこの編成のデュオのレパートリーそのものを二人で開拓してきた。 福田「なかなかいい曲がないんです。どちらか一方のパートが幼稚だったりして、両方の技巧が高いレベルで噛み合っている曲が少ない」 工藤「その中で思い返すと、武満徹さんの『海へ』は、すごく貢献してくれましたね。ピアソラの『タンゴの歴史』は、日本ではわれわれが火付け役だと自負しています」 フルートとギターという編成の魅力は、まさにこのアルバムがそうであるように、リラックスして楽しめることだという。 工藤「和気あいあいと家庭的に、音楽の対話の中でアンサンブルを作れるのが魅力です。そして井戸端会議みたいに、その対話に聴衆が入ってこられる雰囲気があるのもいい。われわれ二人の性格がそうさせているのかもしれないけれど。肩のこりようがない(笑)」 福田「この二人に、あまり厳かなものを期待されても困るので(笑)。まぁ、たまにはもう少し緊張感も持って吹いていただきたい」 工藤「もう夏も終わったから、キンチョウはないんじゃないかなあ」 日本の夏……。いただきました!久元祐子 ピアノリサイタル暗から明へと彩られる味わい深いプログラムを名器の響きで文:飯田有抄 さまざまな時代の多様な特性をもつ鍵盤楽器を自在に操るスペシャリスト、久元祐子。今年のリサイタルでは、久元が愛してやまないウィーンの老舗ピアノメーカー、ベーゼンドルファーの最新型280VC、しかも久元のために製作された「ピラミッド・マホガニー」という美しく貴重な木材が使用されたピアノを用いて、モーツァルトとベートーヴェンの世界へといざなう。 前半のモーツァルトは緊張感と影を感じさせるハ短調の幻想曲(K.475)とソナタ( K.457)。同じハ短調の「悲愴」11/12(木)19:00 紀尾井ホール問 プロアルテムジケ03-3943-6677 https://www.proarte.jp©武藤 章ソナタによってベートーヴェンの世界へとつなぎ、もともとは「ワルトシュタイン」ソナタの第2楽章として書かれたヘ長調の「アンダンテ・ファヴォリ」を経て、明るさと勢い、そして壮大な輝かしさを放つハ長調の「ワルトシュタイン」で締めくくる。暗から明へと彩られるプログラム全体の世界観は、ベートーヴェン生誕250年に聴く内容としても味わい深いものとなるだろう。CD『音の旅~夜明けのセレナーデ~』マイスター・ミュージックMM-4082¥3000+税10/24(土)発売福田進一 ©石井孝典工藤重典 ©土居政則

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