eぶらあぼ 2020.11月号
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31小林研一郎(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団渾身のタクトで贈るモーツァルトとベートーヴェン文:林 昌英コバケン・ワールドVol.26 11/8(日)14:00 東京芸術劇場コンサートホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://www.japanphil.or.jp 2020年も秋に入り、各オーケストラは、特殊な状況だからこそ取り組みたいことを見出し、楽団の成長かつ聴衆の新たな楽しみ方につなげている。日本フィルにとって、そのキーワードは「モーツァルト」かもしれない。 9月17日の「特別演奏会」では、小林研一郎の指揮によるオール・モーツァルト・プログラム、しかも楽団の首席奏者たちをソリストにたてて、クラリネット、フルートとハープ、オーボエの各協奏曲を抜粋して聴かせるという、珍しい機会が実現した。今こそじっくりモーツァルトに向き合い直す好機、と小林と楽団がとらえたからこその、むしろ新鮮な取り組みとなった。しかも、団員の名手がソロに立つことで、その力量を知らしめるばかりか、インティメイトな雰囲気で、楽団内の連携、聴衆とのつながりを深めることにもなったという。 11月の「コバケン・ワールド」も、前半はモーツァルト。《フィガロの結婚》序曲に続き、9月の演奏会で唯一紹介されていなかった木管楽器、ファゴットの協奏曲が取り上げられる。ソリストは同楽団首席の鈴木一志。木管セクションの土台であり大黒柱と言うべき存在で、ソロの場面では常に印象に残る表現を聴かせてくれる名手だ。今回は協奏曲の全楽章ということで、成熟した名技を楽しみにしたい。そして、公演メインは、演奏の度に会場を興奮の渦に巻き込んでしまう、マエストロ最高のレパートリーのひとつ、ベートーヴェンの交響曲第7番。熱狂的な名曲で、今年の憂鬱を吹き飛ばすような時間を過ごしたい。小川典子 ピアノ・リサイタル ロシアの大作曲家たちの名作ロシア作品の豊麗なサウンドがホールを満たす文:山田治生11/7(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200 https://www.kawasaki-sym-hall.jp 小川典子は、1987年のリーズ国際ピアノコンクールで第3位に入賞し、現在、イギリスと日本を拠点に演奏活動を行っている。英国ギルドホール音楽院教授や浜松国際ピアノコンクールの審査委員長を務めるほか、スウェーデンのBISレーベルから30タイトルを超えるアルバムをリリースし、日本を代表する国際的ピアニストの一人に数えられる。 また、川崎市出身の彼女は、ミューザ川崎シンフォニーホールのホールアドバイザーも務める。そして、この秋イギリスよりミューザへ帰り、ロシア音楽によるリサイタルをひらく。小川は、ドビュッシーのピアノ曲全集やサティのピアノ独奏曲集の録音でフランス音楽のイメージが強いが、デビュー以来、ロシア音楽にも力を入れてきた。すでにラフマニノフのピアノ協奏曲全集を残し、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番やムソルグスキーの「展覧会の絵」も録音している。小川の演奏には内面からの情熱があり、その音楽はニュアンスに富んでいる。そして、彼女のしっかりとした重みのある明確な打鍵や豊かな音量がロシア音楽にふさわしい。今回は、ラフマニノフの「10の前奏曲」op.23から第1、4~7番、「13の前奏曲」op.32から第7、10、12番、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」を取り上げる。小川のスケールの大きな表現が満喫できるに違いない。彼女のホームというべきミューザ川崎シンフォニーホールでのリサイタルが待ち遠しい。©Richard Cannon鈴木一志小林研一郎 ©山本倫子

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