eぶらあぼ 2020.11月号
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30©大窪道治堀米ゆず子 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル11/7(土)14:00 兵庫県立芸術文化センター 問 芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255 http://www.gcenter-hyogo.jp11/11(水)19:00 サントリーホール問 ヒラサ・オフィス03-5727-8830 http://www.hirasaoffice06.com堀米ゆず子(ヴァイオリン)バッハの無伴奏には人生の喜び、諦め、輪廻が描かれています取材・文:片桐卓也Interview 長期間にわたる審査など、最難関と言われるエリーザベト国際音楽コンクール。そのヴァイオリン部門で1980年に日本人として初めて優勝を飾ったのが堀米ゆず子だ。それから40年。ずっと世界の第一線で活躍を続けてきた彼女にとって節目の年に、それを記念して兵庫県立芸術文化センター(11/7)とサントリーホール(11/11)でソロ・リサイタルが行われる。選んだ作品はJ.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の中から、ソナタ第1&2番、パルティータ第1&2番の4曲だ。 「これまでに様々なスタイルのリサイタルを行ってきましたが、今回はバッハの作品だけでも良いかな? と昨年ぐらいに思いました。作曲家が作品を作っていく過程には、その生き方が必然的に関わってきます。この次の曲はこの心境で、というようなアイディア、想い。それを強く感じるので、バッハの作品でそれを再現しようと思いました。ただ、全6曲演奏するとなると、昼と夜の2回のコンサートになってしまうので、今回はソナタ第1番から始まりパルティータ第2番まで、という形に収めました」 彼女がバッハの無伴奏曲と付き合い始めたのは小学校4年生からだった。 「先生から勉強するようにと、BWV1006(パルティータ第3番)のプレリュードをいただき練習を始めました。洋館で弾いてみた時になにか『啓示』のようなものを受けたという記憶がはっきりあります」 長じて江藤俊哉氏の教えを受けることになった。 「江藤先生は、バッハはメロディですよ、と。対位法、和声、ともすれば音の充実にばかり気をつかっていた時に、その言葉をいただき、ハッとしました」 以前に、兵庫県立芸術文化センターでバッハとブラームスを中心にしたプログラムで連続リサイタルを行ったことがあった堀米。その時には「バッハは背骨」と語っていたのが印象的だった。 「いまは『バッハは全身』でしょうか。今年の夏に母を亡くしました。92歳の大往生でした。父は42年前に他界していますが、父が好きだったフランスの文学などを読み返し、彼らの教育、導きの恩恵に心を新たにしました。バッハの有名な『シャコンヌ』も、最初の奥さんが亡くなった後に書かれています。そこにも人生の始まり、その喜び、諦め、そして輪廻も描かれていると感じています」 能の世界にも魅かれ、世阿弥の言葉の中に心を打つものがあり、その影響で自身の表現が変わってきたという堀米。バッハの世界を通して彼女の生き方も感じさせてくれるリサイタルになるに違いない。三浦はつみ オルガン・リサイタル ルーシーとの対話─惜別のとき23年間の輝かしき集大成を聴く文:宮本 明 1998年の横浜みなとみらいホール開館以来務めてきたホールオルガニストを12月で退く。三浦はつみは演奏やオルガン公演の立案はもちろん、つねに楽器の状態を見極め、調整し、ゲストの奏者たちを迎えるホスト役も担ってきた。「ルーシー」の愛称で呼ばれるこの楽器を世界で一番知り尽くした存在だ。 オルガンやその作品は宗教と密接だ。以前彼女は、パイプが、天上と地上を結ぶ通路のように感じると話した。バッハ「前奏曲とフーガ BWV546」はハ短調。3つの♭は三位一体の象徴でもある。日本のオルガン曲の第一人者・11/18(水)19:00 横浜みなとみらいホール問 横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000https://mmh.yafjp.org/mmh/©平舘 平坂本日菜の2曲は、キリスト者だった八木重吉の詩によるソプラノ歌手(共演:田中綾乃)を伴う新作「涙の日」初演と、昨年三浦のために書いた「九品来迎図Ⅳ」。阿弥陀来迎を描いた平等院壁画の浄土思想はキリスト教とも遠く重なる。そして復活祭の聖歌が全曲を貫くヴィドールのオルガン交響曲第10番「ローマ風」。三浦とルーシーの輝かしい23年間の集大成が天地に満ちる。

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