28郷古 廉(ヴァイオリン) ホセ・ガヤルド(ピアノ)若き才能たちの音楽の自然発火を楽しむ文:江藤光紀12/16(水)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.com 2013年にティボール・ヴァルガ・シオン国際ヴァイオリン・コンクールで優勝を果たして以来、躍進を続ける郷古廉と、アルゼンチン出身、ルックスも音楽もあか抜けた野趣を感じさせるホセ・ガヤルドは、18年、アンドレアス・オッテンザマー(クラリネット)のリサイタルを介してトッパンホールで共演した。マネージャーやプロデューサーたちはそこでピンと来たようだ――この二人のリサイタルを実現したら面白いのではないか、と。 なるほど、郷古は未知の可能性を多分に残している。ガヤルドは優れた共演者として多くの才能の美質を引き出してきた。二人が触発しあい、心ゆくまでぶつかったら、思いがけないものが生まれてくるのではないか…。 オッテンザマーのリサイタルで二人はドビュッシーとバルトークを演奏したが、今回のプログラムもその延長に組まれているようだ。バルトーク「ラプソディ第2番」、そしてラヴェルのエキゾティシズム薫る「ツィガーヌ」とヴァイオリン・ソナタ、その間をクライスラー「ウィーン奇想曲」でつないで後半を構成した。これに対し前半は、プーランクとグリーグ(3番)の二つのヴァイオリン・ソナタが置かれている。 型の定まった重厚な音楽ではなく、ヴァイオリンの機能性が十分に生き、洒脱でロマンティックな歌心を発揮できる、そしてまた強い身体性が感じられ即興性の余地のある音楽。意図が明快で、鮮やかな選曲である。 お膳立ては整っている。客席にゆったりと腰を落ち着け、音楽の自然発火を楽しもうではないか。郷古 廉 ©Hisao Suzuki豊嶋泰嗣(指揮/ヴァイオリン) 新日本フィルハーモニー交響楽団名手たちの個性が煌めく協奏曲の愉悦文:飯尾洋一第628回 定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉11/28(土)14:00 サントリーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp 新型コロナウイルスの影響でどのオーケストラも大編成の作品でプログラムを組むのが難しくなっている。しかし、そんな制約を逆手にとるかのような意欲的な公演も開かれている。11月28日の新日本フィル第628回定期演奏会ジェイドもそのひとつ。同楽団のソロ・コンサートマスターである豊嶋泰嗣が指揮と独奏ヴァイオリンを務め、同じくコンサートマスターの西江辰郎、首席第2ヴァイオリン奏者のビルマン聡平、チェンバロの中野振一郎の独奏により、バッハ、ハイドン、モーツァルトの作品が演奏される。名手たちの共演だ。 プログラムはバッハの管弦楽組曲第3番、2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調、ハイドンのヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲ヘ長調、モーツァルトの歌劇《偽りの女庭師》序曲、2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネ ハ長調 K.190。昨今のシンフォニーオーケストラがあまり取り上げないバロック音楽およびその影響を色濃くにじませた古典派初期の音楽が並ぶ。 特にハイドンとモーツァルトの両協奏曲は複数ソリストを要する古典派のコンチェルトという点で興味深い。バロック時代の合奏協奏曲的な発想を受け継いで、ソロ協奏曲とは一味違った親密なアンサンブルがくりひろげられる。奏者と奏者の音によるコミュニケーションが音楽に命を吹き込む。そんな室内楽的な愉悦をたっぷりと堪能できるプログラムが組まれた。西江辰郎ビルマン聡平中野振一郎 ©稲見伸介豊嶋泰嗣
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