eぶらあぼ 2020.11月号
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27ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団新たに姿を現すブルックナーと矢代秋雄の名作2編文:江藤光紀名曲全集 第161回〈後期〉 11/14(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール第686回 定期演奏会 11/15(日)14:00 サントリーホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 https://tokyosymphony.jp ブルックナーの交響曲は巨大なので、アンサンブル力だけではなく、集中力、持続力、体力が揃わないと心底満足いく演奏にはならない。これはどんなオケにとっても高いハードルだが、日本のオケの場合には体躯の大きい欧米人に比べパワーで見劣りするとか、無理を押してサウンドが固くなるとか、そういう難しさがあると思う。ところがノットが東響をリードすると、ぴんと張り詰めた緊張感が保持される中、楽団の能力が極限まで引き出され、硬質の音のシャワーがぎりぎりのバランスで作られる。これは日本のオケの長短の特性をうまく調整した、一つの理想的解決法ではないか。 さて、11月の定期では第6番が披露されるが、意外にもノット自身もこの曲を取り上げるのは初めてになるという。過渡的な作品と見られがちだが、誠実な不器用さといった風情が残る第5番までとも、俗世を超えていくような第7番以降とも異なる伸びやかさと渋さを湛え、人生の深まりを感じさせる。この独特な風格をどう表現するか。 矢代秋雄のピアノ協奏曲も興味深い。初演者の中村紘子から後代へと弾き継がれることで、今や古典的傑作との評価が定着している。ソロの小菅優は東響と2017年に共演し、抜群のテクニックと安定感をみせた。レパートリーとして掌握した作品の再演がいよいよ実現する。 日本には残念なことにその評価が国内にとどまっている作曲家や作品が多い。今回、インターナショナルに活躍するアーティストたちが、新たな次元から作品に光を当ててくれるだろう。小山実稚恵の室内楽 〈第4回〉 ヴィオラ&ピアノ・デュオⅡ 川本嘉子とともに名手二人の稀少なコラボで聴くドイツの逸品文:柴田克彦12/12(土)14:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 https://www.triton-arts.net このところ、名実ともに日本を代表するピアニスト、小山実稚恵の充実ぶりが目を引く。なかでも2019年からの新シリーズ「ベートーヴェン、そして・・・」や、今年リリースしたCD『ハンマークラヴィーア・ソナタ 他』でのニュアンス豊かな名演が際立っている。そんな彼女の室内楽の名奏を味わえるのが、18年から第一生命ホールで開催されている「小山実稚恵の室内楽」。信頼厚き名手たちとともに、ブラームスを軸にした多様な形態の室内楽曲を聴かせる興味深いシリーズだ。 12月の第4回は「ヴィオラ&ピアノ・デュオⅡ 川本嘉子とともに」。これは18年12月に続く共演で、前回同様にドイツの名作が披露される。川本は、ソロや室内楽で最も活躍しているヴィオラ奏者の一人。多方面で実績を重ね、17年からN響の首席客演奏者も務めている。プログラムは、ブラームスのヴィオラ・ソナタ第2番を主軸に、J.S.バッハ、メンデルスゾーン、ベートーヴェンのチェロ・レパートリーを加えた密度の濃い内容。ヴィオラの看板曲たるブラームスの枯淡の傑作はむろん要注目だし、他もヴィオラに合った作品ゆえに清新な感触が期待できる。特にメンデルスゾーンのチェロ・ソナタ第2番の魅惑のメロディを同楽器で聴くのは妙味十分。そしてこうした楽曲におけるピアノの重要性=注目度の高さも言を俟たない。 ヴィオラ+ピアノのデュオをこのクラスの二人で耳にする機会も、小山のヴィオラとのコラボに触れる機会もかなり稀。豊潤で雄弁な川本と自在性抜群の小山が奏でるドイツ室内楽のエッセンスを、大いに満喫したい。左:川本嘉子 右:小山実稚恵 ©大窪道治小菅 優 ©Marco Borggreveジョナサン・ノット ©K.Miura

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