eぶらあぼ 2020.11月号
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108CDCDCDブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ/川口尭史&橋本京子メンデルスゾーン:無言歌集 Vol.1&厳格な変奏曲 Op.54/反田恭平フレネジア/丸山韶しょう&アンサンブルLMC〈カプースチン ピアノ作品全曲録音Ⅳ〉ピアノ・ソナタ第8番、第9番/川上昌裕ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番~第3番川口尭たかし史(ヴァイオリン)橋本京子(ピアノ)メンデルスゾーン:アルバムの綴り「無言歌」ホ短調、無言歌集第1巻~第3巻より、厳格な変奏曲反田恭平(ピアノ)ヴェラチーニ:「12のヴァイオリン・ソナタ集」より第1番・第6番、「12のヴァイオリンまたはリコーダーのためのソナタ集」より第6番、「12のアカデミック・ソナタ集」よりソナタ第12番/コレッリ:「12のヴァイオリン・ソナタ集」より第12番「ラ・フォリア」アンサンブルLMC【丸山韶(ヴァイオリン) 島根朋史(チェロ) 金子浩(リュート) 上尾直毅(チェンバロ)】カプースチン:ピアノ・ソナタ第8番・第9番、ピアノのための組曲、アンダンテ、異なる音程による5つのエチュード川上昌裕(ピアノ)ナミ・レコードWWCC-7931 ¥2500+税NOVA RecordNR-02003 ¥3000+税レック・ラボNIKU-9029 ¥2800+税オクタヴィア・レコードOVCT-00176 ¥3000+税桐朋学園で学び、2017年から読響の奏者を務める川口尭史のデビュー・アルバム。すべての音やフレーズがこまやかに吟味・彫琢されながら、表情豊かで濃密な演奏が展開されており、ブラームスの重厚な魅力を堪能させられる。川口の豊麗な音と濃厚な表現に加えて、世界の舞台での経験豊富な橋本京子の雄弁かつ精妙なピアノの貢献(川口への触発も見逃せない)も大。なかでも、繊細に始まってエモーショナルな高揚を遂げる第3番のパッショネイトな演奏には、終始惹きつけられる。数あるブラームスのヴァイオリン・ソナタ集の中でも充実度の高い、お薦めの1枚。 (柴田克彦)反田恭平が自ら立ち上げたレーベルからリリースする、ソロアルバム第一弾。緊急事態宣言の頃に、子どもの頃弾いたメンデルスゾーン「無言歌集」の魅力が心に蘇り、取り組むことにしたという、全曲録音の1枚目でもある。1曲ごとに別の筆に持ち替えるかのごとく筆致を変え、独特の肌触りの音で、各楽曲の心情を描き出す。ピアノは1887年製NYスタインウェイ。歯切れの良い音を響かせる力強い曲も良いが、「後悔」「ヴェネツィアの舟歌」のような、儚げに消えゆく音を絶妙に駆使した曲は特に魅力的。反田の自由な感性が、メンデルスゾーンの歌心と調和している。(高坂はる香)ヴェラチーニはイタリア・バロックの鬼才。そのヴァイオリンの技術にはタルティーニもおそれをなしたという。若いころの作品は華麗な技に加え自由闊達さ、破格さが印象的だが、円熟期の「アカデミック・ソナタ」のパッサカリアやシャコンヌには、周囲から「風変り」と呼ばれた思弁性が表れ、「狂気」を意味する次のコレッリの「ラ・フォリア」に流れ込んでいく。丸山韶は弓のコントロールが抜群で、旋律を豊かなニュアンスで肉厚に歌わせたかと思えば、軽やかに飛ばしてスピード感たっぷりに駆けぬける。その至芸に耳を奪われるうちに、いつの間にか18世紀ヴァイオリン芸術の深層へ導かれた。(江藤光紀)ピアニストたちに新たなレパートリーを開拓したカプースチン。残念ながら今年他界してしまったが、数多くの素晴らしい作品を残してくれた。それらの全曲録音を行っているのが、カプースチン作品のスペシャリストである川上昌裕である。精密にコントロールされた指さばきと、濃淡のコントラストが見事なタッチの演奏は、カプースチン作品の色彩を鮮やかに魅せてくれる。注目は「ピアノ・ソナタ第8番」。単一楽章のソナタで、華麗なテクニックと複雑なリズムに彩られつつ、動機が巧妙に変化していく様が楽しめ、カプースチンの知られざる一面を発見できることであろう。  (長井進之介)CD

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