eぶらあぼ 2020.10月号
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50下野竜也(指揮) 愛知室内オーケストラ 「新旧ウィーン楽派」楽都で生まれた古典と前衛、その光と陰文:柴辻純子10/16(金)18:45 三井住友海上しらかわホール問 愛知室内オーケストラ052-684-5355 https://www.ac-orchestra.com 2002年、愛知県立芸術大学出身の若手演奏家によって結成された愛知室内オーケストラ(ACO)。15年に新田ユリが常任指揮者に就任以来、意欲的な活動で存在感を示している。10月は初登場の下野竜也の指揮で「新旧ウィーン楽派」の作品を取り上げる。近年のACOの躍進が発揮される魅力的な選曲だ。 20世紀初頭の爛熟のウィーンで活躍したベルクの「室内協奏曲」は、師シェーンベルクの50歳の誕生日に向けて作曲を開始したが、間に合わず翌1925年に完成した。3つの楽章を連続しても、ひとつの楽章だけの演奏も可能で、今回取り上げる第3楽章は、ピアノ(宇根美沙惠)とヴァイオリン(亀谷希恵)の激烈なカデンツァで始まり、室内オケと息をもつかせぬ刺激的な対話が続く。 ウェーベルン「5つの断章」は、弦楽器の凝縮された音の身振り、シェーンベルク「室内交響曲第2番」は、穏当な響きの中でのモティーフの緻密な組み立てなど、三者三様の個性が浮かびあがる。 これらの間に挟まれるのは、ウィーンのエステルハージ侯爵家の楽長をともに務めたハイドンとフンメルのトランペット協奏曲。2曲とも開発されたばかりの有鍵トランペットのために書かれた。独奏は、地元名古屋市出身、昨年まで25年間、新日本フィルに在籍した服部孝也。名手の華やかな技巧と輝かしい音色で、存分に堪能させてくれるだろう。 ベルクは「室内協奏曲」第3楽章のスケッチに「世界、人生、万華鏡」と記した。まさにウィーンの光と陰が反射する作品が並ぶプログラム。その挑戦に大いに注目したい。「驚愕の第九」そして「革新の第九」生誕250年に贈る刺激的な2つの試み文:笹田和人「驚愕の第九」 10/5(月)14:00 「革新の第九」 11/10(火)19:00横浜みなとみらいホール問 横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000 https://mmh.yafjp.org/mmh/ 生誕250年を迎えたベートーヴェンの作品の中でも、特に高い人気を誇る「第九」こと交響曲第9番「合唱付」。そんな傑作を“なかなか聴けない”かたちで楽しむ2つの公演が、横浜みなとみらいホールで開かれる。 まずは、フランツ・リストによるピアノ編曲版を、日本を代表する名手・若林顕の妙技で味わう「驚愕の第九」(10/5)。ベートーヴェンの交響曲全9曲を編曲したリストだが、「第九」はピアノ・デュオ版の後にソロ版に着手するなど、特に慎重に取り組んだ。 膨大な声部を擁する作品を、10本の指だけで表現するには、超絶技巧が要求される。しかし、そこは2008年に録音も発表するなど、かねてから同曲に対峙している若林。単に難曲を弾きこなすに留まらず、“ピアノ曲としての第九”の魅力を余さず引き出す。 そして、気鋭の指揮者・渡辺祐介率いるピリオド楽器オーケストラ「オルケストル・アヴァン=ギャルド」による「革新の第九」(11/10)。今や本流の一つとなった古楽ムーヴメントだが、ピリオド楽器でこのシンフォニーを聴く機会はまだ少ないだけに、貴重な体験となるはずだ。 今回は、藤谷佳奈枝(ソプラノ)、山下牧子(アルト)、中嶋克彦(テノール)、黒田祐貴(バリトン)という実力派ソリスト、クール・ド・オルケストル・アヴァン=ギャルド(合唱)とともに、「初演もかくや」という鮮烈な響きで傑作を上演する。さらに、併演の「ピアノ協奏曲第4番」では、第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第2位となった人気の川口成彦がソリストとして登場するのも楽しみだ。左より:下野竜也 ©Naoya Yamaguchi/服部孝也/宇根美沙惠/亀谷希恵左より:若林 顕 ©Wataru Nishida/渡辺祐介/川口成彦 ©Fumitaka Saito/オルケストル・アヴァン=ギャルド ©Yukiko Koshima

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