eぶらあぼ 2020.10月号
49/169

46藤村俊介 ©Issei Mori安田謙一郎 & 藤村俊介(チェロ・クァルテットK)名手たちの個性が輝く、チェロ四重奏アルバム取材・文:長井進之介Interview 伝説的なチェリストであるカサドやフルニエに師事し、国内外で活躍を続けるチェリストの安田謙一郎。彼を中心に、その門下生であり、現在NHK交響楽団のフォアシュピーラーの藤村俊介、同楽団の首席を33年務め、現在はソリストとして活躍する木越洋、そして同楽団の注目の若手である宮坂拡志。日本のチェロの名手たちが集い、「チェロ・クァルテットK」を結成、初のディスクをリリースした。今回は安田と藤村に、結成の理由やディスクの内容などについて話を聞いた。 藤村「レーベルから、安田先生を中心にしたチェロ・クァルテットのアルバムをレコーディングすると面白いのではないか、というお話をいただいたのがきっかけです。そこで、私がメンバーを集めました。いままでにないアンサンブルの形になったと思います。安田先生と木越先生がかなり勢いのある演奏をされるので(笑)、それに宮坂さんと必死に食らいつきながらアンサンブルを作っていきました」 確かに聴いていると、それぞれの奏者の個性が輝いている。だからこそ、チェリスト4人以上の存在感や音圧、輝きを感じることができる演奏になっている。 安田「チェリスト4人の演奏なので、スリリング…と思うかもしれませんが、普通の弦楽四重奏であればこういうアンサンブルは普通だと思いますよ。それぞれがやりたいことを出し合うからこそ生まれるものがありますよね。そして、木越さんが一番下のパートを弾いてくださったのがとても良かったと思います。オーケストラや室内アンサンブルの際にはコントラバス奏者がいて、私たちチェロ奏者は彼らの奏でる音にのっていくのですが、今回は木越さんが素晴らしいベースを作り出してくれたのがとてもやりやすくて」 プログラムは、バッハの「G線上のアリア」に、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」などが並ぶ、一見名曲集のようにも思えるが、ヴァルガの編曲によるバッハの「シャコンヌ」にくわえ、演奏・録音ともに稀少な、チャイコフスキーと同世代の作曲家、クズネツォフの「組曲」が収録されている。 藤村「クズネツォフは安田先生が提案してくださいました。これまで様々なチェロ・クァルテットのための作品を演奏してきましたが、この曲は知りませんでした。旋律的ですし、和声も美しい魅力的な作品です」 安田「せっかくチェロ・クァルテットのアルバムを出すので、この編成のための珍しい作品を皆様にお聴きいただきたかったのです」 名曲や録音が稀少な作品を、チェロ奏者4人の創り出す、華麗な演奏と奥行きのある響きでぜひ楽しんでほしい。吉江忠男 バリトン・リサイタル2020 シューベルトのバラードと名歌曲集シューベルトに挑む大ベテラン二人の至芸を堪能する文:宮本 明 今年80歳! フランクフルト市立歌劇場の専属として活躍し、パヴァロッティ、カレーラスらとの共演など豊富な経験を持つ吉江忠男がシューベルトの歌曲を歌う。演奏曲中、吉江自身が「挑戦」と心構えを吐露しているのが〈人質〉D246だ。太宰治が『走れメロス』の原作にしたことでも知られるシラーの詩による歌曲で、「バラード」と呼ばれる物語性のある構成の歌。演奏時間はなんと15分を超え、レチタティーヴォと旋律的なメロディが交代して進む長大な歌曲は、ほぼ「一人オペラ」といった様相。11/21(土)14:00 サントリーホール ブルーローズ(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677 https://www.proarte.jp声楽技術は言わずもがな、歌を通してのドラマ表現が重要な鍵となる難曲だ。 共演ピアニストは、こちらも87歳の大ベテラン小林道夫。音楽性や技術の獲得は年齢を問わないかもしれないが、長い活動のなかで身につけた経験・知見は、若い音楽家がどんなにあがいても得ることのできない宝だ。半世紀を超える交流で気心知れた二人の、まさに至芸をしっかりと味わいたい。小林道夫 ©木之下 晃吉江忠男CHACONNE by Cello Quartet K11/3(火・祝)14:00 横浜市港南区民文化センター ひまわりの郷 ホール問 celloadagios@gmail.com(山崎)CD『シャコンヌ』マイスター・ミュージックMM-4081¥3000+税9/25(金)発売安田謙一郎 ©Yoichiro Nishimura

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る