eぶらあぼ 2020.10月号
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41務川慧悟(ピアノ)覇気漲る俊英がデビュー・アルバムに込める思い取材・文:長井進之介Interview 2019年のロン=ティボー=クレスパン国際音楽コンクール第2位入賞をはじめ、数々の輝かしい成績を収め、国際派のピアニストとして着実な歩みを見せる務川慧悟が、ついに日本でのソロ・デビューアルバムをリリースする。今年2月の収録で、ショパン、ラフマニノフにブーレーズという、非常に新鮮な作曲家の組み合わせが務川らしい。 「今回のプログラムの中心はブーレーズの『アンシーズ』です。これはロン=ティボー国際コンクールのために勉強したもので、傑作なのはもちろんですが、もし数年弾かずにいたら弾けなくなってしまうかもしれないほど難しい作品です。だからこそぜひ、今残しておきたかったのです」 ショパンでは若き日に書かれたボレロにバラード第1番とノクターン第18番を選曲。 「まずボレロは最近のお気に入りです。青年期だからこその情熱や甘酸っぱさを感じます。同時期のバラード第1番を挟み、作風の変化を感じていただくこと、そしてラフマニノフへの橋渡し…という意味も込めて、最晩年のノクターンを選曲しました」 最近は反田恭平との共演で、ラフマニノフ「2台のピアノのための組曲第2番」の素晴らしい演奏を聴かせてくれた務川。このアルバムでもラフマニノフの「楽興の時」は、彼の研ぎ澄まされた技巧と多彩な音色を味わえる。留学先がフランスということもあり、フランスもののイメージが強いが、ロシアものはよく弾いていたという。 「ラフマニノフは東京藝術大学在学中にかなりよく弾いており、強い共感を持って弾ける作曲家です。留学以来弾く機会が減っていましたが、今回、ぜひ弾きたい! と選びました」 務川らしい想いの詰まったアルバムだが、さらに“裏”コンセプトも教えてくれた。 「素晴らしく明るい色彩に満ちたところから、次第に淡く霞み、最後にはまったく無機質なところへと落ちてゆく…というコンセプトを忍び込ませました。ボレロは太陽が真南に輝く昼、ノクターンは夕暮れ。ラフマニノフでは白黒の映像で、寒く暗い景色が浮かびます。そしてブーレーズは、色彩という概念すらなくなり、ほとんど“計算”の世界です。このCDを制作している頃は、まだ世の中がこのようなことになるとは想像もしていませんでしたが、こうした状況下だからこそ、お聴きいただくことで“何か”を感じてもらえるのではないかと思います。前向きな気持ちとは正反対のものをお感じになるかもしれませんが、それが何かを考えるきっかけとなって、皆様の日々に“彩り”を添えることができたら、これほど幸せなことはありません」第501回日経ミューズサロン セリーナ・オット トランペット・リサイタルトランペット界のミューズ、注目の初来日!文:柴田克彦 いま最注目のトランペッターが日経ミューズサロンに登場する。その名はセリーナ・オット。2018年、“最難関”とされるミュンヘン国際音楽コンクールのトランペット部門で女性初の優勝を成し遂げた、オーストリアの天才奏者である。 6歳でトランペットを始め、ウィーンやカールスルーエ(有名なラインホルト・フリードリヒに師事)の音大で学んだ彼女は、コンクール優勝後ソリストの道を歩み、ケルンWDR響、ベルリン・ドイツ響、チェコ・フィル等の著名楽団との共演をはじめ世界的に活躍してい10/14(水)18:30 日経ホール問 日経公演事務局03-5227-4227http://www.nikkei-hall.com©Oliver Kendlる。超絶的な技巧、豊潤にして張りのある音色、デリケートな表現力を併せ持った演奏はすこぶる魅力的。なかでもスムーズな音の運びには驚嘆させられる。 彼女は今回初来日にもかかわらず、ペスキン、パクムトヴァ、グリエール(原曲はコロラトゥーラ・ソプラノ協奏曲)の協奏曲と、ブラント、ゲディケのテクニカルな小品を並べた近現代ロシア中心のプロで勝負する。この意欲的かつ筋の通った内容も音楽性の高さの証し。共演はピアノのリンエン=チァ。ここはぜひ若き実力者の妙技に酔いしれたい。©Masatoshi YamashiroCD『ショパン ラフマニノフ ブーレーズ』コジマ録音ALCD-7253¥2800+税

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