eぶらあぼ 2020.10月号
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39若林 顕 ピアノ・リサイタル202011/23(月・祝)14:00 東京芸術劇場コンサートホール問 アスペン03-5467-0081 https://www.aspen.jp若林 顕(ピアノ)深化を続けるヴィルトゥオーゾが奏でる幻想的な世界取材・文:高坂はる香Interview スケールの大きな表現と高い技巧で定評のある、ピアニストの若林顕。ベートーヴェンやブラームスなど「シンフォニックな要素の強い」音楽に長らく取り組んできたが、それに加えて近年は「ピアノで歌や色、遠近感を表現する」ため、さらなる探究を続けているという。 そんな中、今度のリサイタルには、幻想的でロマンティックなプログラムを選んだ。 「冒頭はラフマニノフの『楽興の時』。空間的な浮遊感、過去や未来も漂うようなファンタジックな世界を表現したいです。続くシューマンの『幻想曲』は、作曲家の葛藤や苦悩、一瞬の夢が複雑に屈折しながら混ざり合うところに、えもいわれぬ美しさがあります。昔から魅せられてきた作品で、弾くたびに感じ方が変わっている。音を出すうえでの可能性は無限です。ファンタジーの世界を追求し、私が今できる最高の演奏を届けたいと思います」 後半はラヴェル「水の戯れ」とショパン「24の前奏曲」。 「ようやくここ2、3年、フランス的な色彩感、風のような音楽の移ろい方をとらえ、自由になってきた気がしているのです。自分の中で裏付けを感じ、壁を取り除けたという感覚でしょうか。ショパンの全曲シリーズ演奏会に取り組んだことも大きかったです。さまざまな表現に挑戦しながら、リズム感、左手のあり方やメロディの際立たせ方、ツヤの種類について考えたことで、こう弾きたいということが具体的になっていきました」 ヴァイオリニストで妻の鈴木理恵子との共演も大きな影響を与えているという。 「彼女にインスパイアされ、眠っていたものが掘り起こされるのです。自分の中にある正反対のものが目覚め、混ざり合っていく。とても楽しい瞬間です」 東京芸術劇場コンサートホールという空間で、ソーシャルディスタンスを保った上での公演。「ミクロとマクロを融合させた表現で、遠さが感じられないような親密な空気にできたら」と話す。 最後に、演奏会を通じて届けたいことを聞いた。 「作曲家が波乱の人生から絞り出すように生んだ作品には深みがあり、後世に残ります。私はピアニストとして、こうした作品を少しでも理解し、経験と重ねあわせ、自分の感動として伝えていきたい。今も現実社会で、みなさんさまざまな境遇にいらっしゃると思います。困難の中にいる方の心に染み込むものをいかに奏でるか。前向きなエネルギーが届くことを祈って弾くこと。これは音楽家として、忘れてはならないことだと思っています」アンサンブル・ノマド 第70回定期演奏会 ともに生きるVol.2 ~未来につなぐ~委嘱3作、そしてキッズとの共演が導く音楽の“その先”文:藤原 聡 現代音楽専門の団体、と言うだけではアンサンブル・ノマドの説明にはならない。保守本流やらポストモダンなんて言説なぞどこ吹く風、文字通り「遊牧」民のような自在さで多種多様な音楽に遊ぶ当グループ。 来る10月9日には「ともに生きるVol.2~未来につなぐ~」のタイトルのもと、前半は児童文学の編集者として名高い荒木田隆子の名前を冠した「荒木田隆子基金」の委嘱作3曲―岸野末利加「マリンバとピアノのためのダブルコンチェルト『ウード(沈香)』」、渡辺裕紀子「都市と記憶」、権代敦彦「たと10/9(金)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 キーノート0422-44-1165https://www.ensemble-nomad.comえ死の陰の谷を歩むとも」(いずれも世界初演)―、そして後半はテリー・ライリーの「In C」の計4曲を取り上げる。前半曲は現段階で詳細不明だが、リーダーの佐藤紀雄曰く「どの曲も意欲にあふれ、作曲者の経験と現在の感興がほとばしる、私たちの知らない世界を聴かせてくれるものである」。NOMAD KIDSが参加する「In C」もひと味違った展開の予感。©Burkhard Scheibe©Maki Takagi

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