eぶらあぼ 2020.10月号
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32クァルテットウィークエンド2020-2021ウェールズ弦楽四重奏団~ベートーヴェン・チクルスⅢ&Ⅳ(全6回)実力派クァルテットの知的な選曲が光るチクルス2年目文:宮本 明【Ⅲ】11/14(土)14:00 【Ⅳ】2021.1/15(金)19:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 https://www.triton-arts.net その名をラテン語の「verus(真実の)」に由来するウェールズ弦楽四重奏団。ソリストとして、オーケストラの主要メンバーとして楽界を牽引する、﨑谷直人、三原久遠(以上ヴァイオリン) 、横溝耕一(ヴィオラ)、 富岡廉太郎(チェロ)の4人による現代屈指の実力派クァルテットだ。第一生命ホールで進行中のベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲チクルス(全6回)が2年目、中盤を迎える。 ベートーヴェンの16曲をどう分け、どう関連づけながらプログラムするかは、全曲演奏の大きな興味だが、今回の構成も知的だ。彼らによれば、第3回(11/14)はベートーヴェンのパトロン2人にフォーカスした選曲。ロプコヴィッツ侯爵に献呈された2曲、第4番ハ短調とその平行調で書かれた第10番変ホ長調「ハープ」。そしてラズモフスキー伯爵に献呈された第7番ヘ長調「ラズモフスキー第1番」。この3曲は、ロプコヴィッツに献呈された「英雄」、連名で両者に献呈された「運命」「田園」の交響曲3曲と調性が一致するという美しい連環もかっこいい。 そして第4回(2021.1/15)は、第1番ヘ長調、第11番ヘ短調「セリオーソ」、第14番嬰ハ短調と、前期・中期・後期の3曲がバランスよく配置される。第1番と第11番は同主調の関係だが、ともに第1楽章のテーマがユニゾンで提示されるという共通項もある。 苦悩から歓喜へ。いまだ不安な状況が続くなか、彼らのベートーヴェンが希望の光を与えてくれる。左より:横溝耕一、﨑谷直人、富岡廉太郎、三原久遠 ©Satoshi Oono大友直人(指揮) 東京交響楽団「源氏物語」とシベリウスが合流し広がる世界文:江藤光紀東京オペラシティシリーズ 第118回10/3(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 https://tokyosymphony.jp 映画で、ドラマで、教養番組で、CMで、私たちは千住明のあまたの音楽を耳にしてきた。映像の意図に的確な音を与え奥行をぐんと作り出す仕事には、場面に見合った表現をオーケストラで構築する才能、耳から心へとすっと届くしゃれた旋律を生み出す才能、言葉のもつ抑揚をメロディへと具現化する才能などを生まれもち、長年のキャリアの中で磨かれた力が十二分に発揮されている。 これらの音楽が心に響いた人は、10月の東響オペラシティ定期でじっくりと耳を傾けてみてはいかがだろう。純音楽分野でも精力的な千住だが、この日は代表作・詩篇交響曲「源氏物語」が披露される。千住の声楽曲の魅力はなんといっても、日本語の美しさを引き出す自然なメロディラインにある。その才が生きるには大衆に訴える優れた言葉の紡ぎ手たちとのコラボが欠かせないが、この点でも千住はふさわしいパートナーを選んできた。「源氏物語」では松本隆が、千年前のいにしえの悲恋を格調高い現代的ロマンスへと語りなおしている。指揮は千住作品に深い理解を寄せてきた大友直人。独唱には着実な歩みを続ける嘉目真木子をソプラノ、司会にプロデュースにと活躍を続ける錦織健をテノールに配している。 組み合わせはシベリウスの交響曲第2番。不思議にも思えるとりあわせだが、シベリウスもフィンランドの国民叙事詩に根差した創作を行っているし、千住のオーケストレーションの清涼感、抒情性、ダイナミズムとの相性もよさそうだ。言われてみれば…という選曲の妙を感じる。左より:大友直人 ©Rowland Kirishima/嘉目真木子 ©T.Tairadate/錦織 健 ©Hirotake Ooyagi(都恋堂)

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