eぶらあぼ 2020.10月号
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114CDバッハ:ゴルトベルク変奏曲/ラン・ランドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」 他/上岡敏之&新日本フィルロマンス ヨアヒムの愛器でヨアヒムを聴く/永峰高志&久元祐子さんごじゅの花 池辺晋一郎 室内楽作品集ⅢJ.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲ラン・ラン(ピアノ)ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」/コダーイ:ガランタ舞曲/バーバー:弦楽のためのアダージョ上岡敏之(指揮)新日本フィルハーモニー交響楽団C.シューマン:3つのロマンス/ヨアヒム:ロマンス 変ロ長調/R.シューマン:3つのロマンス第2曲/ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」永峰高志(ヴァイオリン)久元祐子(ピアノ)池辺晋一郎:この風の彼方へ、ストラータⅡ、ギターは耐え そして希望しつづける、君は土と河の匂いがする、クインクバランスⅡ、さんごじゅの花 他ユベール・スダーン(指揮) オーケストラ・アンサンブル金沢 河野紘子(ピアノ) 工藤重典(フルート) 大萩康司(ギター) 亀井良信(クラリネット) 小林沙羅(ソプラノ) クァルテット・エクセルシオ収録(限定盤):2020年3月、ライプツィヒ(ライブ)ユニバーサル ミュージックUCCG-40110/3(限定盤・4枚組) ¥5400+税UCCG-1876/7(スタンダード盤・2枚組) ¥3200+税収録:2019年3月、すみだトリフォニーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00732 ¥3200+税マイスター・ミュージックMM-4079 ¥3000+税収録:2018年9月、石川県立音楽堂コンサートホール(ライブ) 他カメラータ・トウキョウCMCD-28374 ¥2800+税20年以上にわたる探求やピリオド楽器奏者のシュタイアーとの意見交換などを経ながら、満を持して録音された人気奏者の人気作。90分強の演奏時間が示す通り、ラン・ランは1音1フレーズにニュアンスを込めて、じっくりと―特に遅い変奏は長大なモノローグの如く―曲を運ぶ。だが音楽は絶えず流動し、音色と表情の多様性やリピート時のこまやかな変化も相まって、終始耳を惹きつける。良き例を挙げれば孤独で侘しい13変奏と力感十分に躍動する14変奏の対照性。そして最後のアリアはまるでバッハの墓に溶け込むかのようだ。バロック奏法も踏まえたモダン楽器ならではの超快演!(柴田克彦)昨年3月のすみだ平和祈念音楽祭のライブ。「新世界交響曲」は正攻法で作品の骨組みをがっちりと捉えた。滑り出しから集中力が高く、ほの暗く深いサウンドでじっくり進めていく。とりわけ少し遅めのテンポで構築した第三楽章には、作品に対する姿勢が端的に表れた。一方、思わぬ方向から作品に切り込みぐいぐいと肉薄する上岡節も健在だ。コダーイ「ガランタ舞曲」ではなまめかしいエキゾティシズムを振りまき、熱狂に向かって駆けていく。さらにアンコールで演奏されたバーバー「弦楽のためのアダージョ」の湧き上がるように天に昇っていくクレッシェンド。この人ならではの魅力も満載だ。(江藤光紀)19世紀のヴァイオリンの巨匠ヨーゼフ・ヨアヒムが愛用したことから、その名がある1723年製ストラディヴァリウス〈ヨアヒム〉。現代日本の名匠・永峰高志がこの銘器でヨアヒム自身や、親交のあったシューマン夫妻、そしてブラームスの佳品を紡ぐ。その艶やかな音色は、歴代の巨匠たちの魂が層を成して重なっているよう。名匠は敬意と慈しみ、愛情をもって楽器と作品に対峙、彼らが生きた時代へと聴き手を連れ出す。特に自然なポルタメントは、上品な雰囲気を醸出。ベーゼンドルファーを弾く久元祐子も、繊細なプレイにぴたりと寄り添う、絶妙の好サポートで魅せる。(寺西 肇)本年喜寿を迎えた池辺晋一郎はなおも盛んな創作活動を展開しているが、本アルバムは1980年代から2010年代に書かれた室内楽曲(ソロ曲もあり)を集成、かつ冒頭と末尾にはその編成に収まらない曲を縁取るように配置してシンメトリカルに構成。全8曲中殊に印象深いのは高度な技巧と池辺独特の歌謡性が結び付いた「ストラータⅡ」(フルートソロ)及び「ギターは耐え、そして希望しつづける」(ギターソロ)、そしてソロと弦楽四重奏の融合と対立の妙を聴かせるクラリネット五重奏曲「クインクバランスⅡ」であろう。最後の若書きのタイトル曲はさすがに平明ながらすでに聴かせる。(藤原 聡)SACDSACDCD

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