eぶらあぼ 2020.09月号
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82SACDCDBlu-rayCDびわ湖ホール プロデュースオペラ ワーグナー:《ニーベルングの指環》第3日《神々の黄昏》ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番&第29番「ハンマークラヴィーア」/小山実稚恵ブラームス:交響曲第1番/久石譲&フューチャー・オーケストラ・クラシックスJ.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ/アテフ・ハリムワーグナー:《ニーベルングの指環》第3日《神々の黄昏》沼尻竜典(指揮) ミヒャエル・ハンペ(演出) クリスティアン・フランツ(テノール) ステファニー・ミュター (ソプラノ) びわ湖ホール声楽アンサンブル 新国立劇場合唱団 京都市交響楽団 他ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番、同第29番「ハンマークラヴィーア」小山実稚恵(ピアノ)ブラームス:交響曲第1番久石譲(指揮)フューチャー・オーケストラ・クラシックスJ.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番~第3番、パルティータ第1番~第3番アテフ・ハリム(ヴァイオリン)収録:2020年3月、びわ湖ホール(ライブ)びわ湖ホール(HPで販売)BWKH001~2(2枚組) ¥10000(税込)ソニーミュージックSICC 19050 ¥3000+税収録:2020年2月、東京オペラシティ コンサートホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00733 ¥3200+税A&A artAAA-010~011(2枚組) ¥4000+税公演直前にコロナで中止になり、無観客ライブ配信され話題になった舞台。ハンぺの演出は本来の作品世界をストレートに再現したが、最新投影技術により華麗な仮想空間に仕上がっている。ブリュンヒルデのミュター、ハーゲンの妻屋など歌唱陣の健闘もさることながら、ワーグナーに継続して取り組んできた沼尻&京響が熱気の立ち上る力演を全編にわたって聴かせているのが印象的だ。びわ湖ホール声楽アンサンブルと新国立劇場合唱団の混成部隊もがっちりとまとまりのよい群集劇をみせた。オーソドックスなアプローチだが、チームワークできっちりと作品を掘り下げ21世紀のワーグナー像を示した。(江藤光紀)小山実稚恵のディスコグラフィに、ついにベートーヴェンのピアノ・ソナタが加わった。それも後期作品。第28番は凛とした雰囲気が貫かれたうえで、ゆったりした楽章では繊細に歌い、快活な楽章でははじけるような音が響く。第29番「ハンマークラヴィーア」は、広音域をかけめぐる輝かしい音楽を、自然な緩急のついた伸びやかな流れで奏でる。ロマンティックな第3楽章とキリリとした第4楽章のコントラストも鮮やか。何一つうやむやにすることのない明確な音が、壮大な世界を築きあげる。満を持してのベートーヴェン録音らしい、堂々たる演奏がおさめられている。(高坂はる香)すでに指揮者としても確固たる評価を得ている久石譲がフューチャー・オーケストラ・クラシックスと今回世に問うたのはブラームスの交響曲第1番。なるほど指揮者の意図は明確で、それはロマンティックに肥大した音像からの脱却。極めて速いテンポを採用し、序奏から明らかなように対位法的な音構造を明晰に抽出している。各楽器の「発声」もキビキビと明確、これが第2楽章で効果的に生きる。さらには要所での有機的なリズムの繋がりも感じられ(例えば序奏と第2楽章終結近くのヴァイオリンソロ/ホルン/ティンパニの箇所…)、40分に満たぬテンポで駆け抜ける、だけではない目配せも十分。(藤原 聡)世に“バッハの無伴奏”の録音は数あれども、これは唯一無二だ。揺らぐ音程、湾曲したリズム、振れ幅の大きなテンポ。大理石の滑らかさではなく、無垢の木が持つ、荒々しくも温かな手触り。若くしてフランス国立管弦楽団のコンサートマスターを務め、シェリングら巨匠の薫陶を受けた鬼才ヴァイオリニスト、アテフ・ハリム。70歳を目前にして、銘器アマティでパルナッソス山を目指した。その姿は、“スタイリッシュ”とは対極。しかし、生身の自分をさらけ出すかのように圧倒的な個性は、「演奏とは、音楽とは何か」という究極の問いに対する、説得力に満ちた回答に思える。 (笹田和人)

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