eぶらあぼ 2020.09月号
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26竹澤恭子 ベートーヴェン2大ヴァイオリン・ソナタ「春」&「クロイツェル」今だからこそ日本の名手たちによる力強い音のメッセージを受け止める文:江藤光紀10/24(土)14:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 https://www.triton-arts.net 海外アーティストがちょっと遠い存在になってしまったが、私たちの国には世界に誇るアーティストもたくさんいる。今こそせわしないグローバリゼーションの中で見落としていたものを再発見するチャンスなのだ。 竹澤恭子もそんな一人。重量感のある音、スケールの大きな造形力は、日本人離れしたものがあるとさえ言えるかもしれない。リサイタルに、コンチェルトにと長らくソロを中心に活躍してきたが、近年はサイトウ・キネン・オーケストラや水戸室内管でも要職をこなしてきた。場に応じた役割を的確に果たしながら演奏の幅を広げ、竹澤は静かに円熟の時を迎えようとしている。 今回のプログラムはアニヴァーサリーのベートーヴェンのソナタばかり。5番「春」、7番、9番「クロイツェル」の3曲は難聴を自覚し始めた頃から「傑作の森」に至る作品群で、気品とドラマ性、力強さに満ちており、創作に精力的に取り組む作曲家の姿が浮かんでくる。ピアノは世界的なプレイヤーたちから絶大なる信頼と賞讃を集めてきた江口玲。この3曲ではピアノも大きな役割を果たし、とりわけ「クロイツェル」はコンチェルトのように雄大な協奏を繰り広げる。世界の檜舞台で活躍する二人がずばんずばんと重い球を投げ込んでくるはずだ。 会場は音にノーブルな衣をまとわせる第一生命ホール。コロナ下でのベートーヴェンイヤーになってしまったが、こんな状況だからこそ障壁を乗り越えた創作が伝えてくれるものがあるはず。力強い音のメッセージを体で受け止めよう。高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団ベートーヴェンからベルクまで――ウィーンを彩った音楽の系譜文:林 昌英第338回 定期演奏会 11/13(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp 毎回渾身の演奏を繰り広げる東京シティ・フィルだが、常任指揮者・高関健との公演はやはりひときわ違うものになる。新旧ウィーンの作曲家3人が並ぶ11月定期も、高関らしい仕掛けが感じられるプログラムで、興味が尽きない。 最初は生誕250年のベートーヴェンから交響曲第2番を。作曲は1802年。フランス革命以降の変化が続く新世紀初頭、自身と世の中の活力を反映したのだろう、強い意欲と冒険心が発揮された、希望にあふれる傑作である。 そして、一世紀を経てシンフォニーは規模も表現も拡大。その到達点となる存在がマーラーであり、特に彼の晩年の作品群だろう。1910年から取り組んだ最後の交響曲第10番の第1楽章“アダージョ”は、自身の生と愛に向き合った悲痛な情感が、濃密な旋律と斬新なハーモニーに込められた、感動的な一編である。 その音響を推し進めたのが新ウィーン楽派の「十二音技法」だが、斬新な技法の中で熱い感情を表現したのがベルクである。1922年完成のオペラ《ヴォツェック》は重要な傑作で、1821年に起きた殺人事件をもとに、社会の枠にはまれなかった市民の悲劇を描きつくす。ベートーヴェン生前の社会の陰の姿が、ベルクならではの厳しくも美しい音楽で再現されるのである。 高関と東京シティ・フィルの熱演と深い表現への期待は大きいし、ベルクでは20世紀作品を得意とするソプラノ半田美和子の歌も加わる。輝かしい開始から虚無感漂う終結まで、3作品で100年にわたるヨーロッパの光と影を体験できる、意義深い一夜となる。©松永 学半田美和子 ©Goda高関 健 ©大窪道治

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