91ンサーをサポートする、クリエイションのための場所を」という氏の熱望が実現したものだ。 新しい試みに満ちていて、ダンサーと社会をつなぐ伝道師的な役割の経験豊かなダンサーや、契約など法律面でダンサーの相談に乗る専門の弁護士もスタッフに名を連ねる。また若いアーティストを支援するアソシエイト・アーティスト制度なども備えているのだ。 本当は3月に、海外招聘公演も含む華々しいオープニング・プログラムが組まれていたが中止・延期になった。しかし海外ゲストのために予定されていたスタジオの使用日程を日本のアーティストに無料で提供するなど、素早く対応している。 今回のコロナ禍で明らかになったのは、日本という国の「アーティストに対する社会的なセイフティ・ネットの脆弱さ」だ。無関心さ、と言ってもいい。様々な補助金も、だいぶ時間が経ってからフリーランスのアーティストにも出るようになったが、当初は「好きなことをやってるヤツらは、食えなくなる覚悟くらいしておけ」という声がネットに溢れた。 5月にはやっと緊急事態宣言が解除されたが、稽古場を借りたりと、舞台の上演には準備に数ヵ月はかかるため、すぐには仕事にならないのだ。 コロナ禍は不運だったが、DaBYはあらためて「ダンスのための場所を持つことの重要性」が浮き彫りになったなかでの船出、といえるだろう。第70回 「M1オンライン・フェスと、ダンスのための新しい場所DaBY」 なんと本連載は70回を迎えることができた。人間の年齢でいえば古希。こんなに続くとは、まさに「古来稀なり」である。音楽界の読者からもうれしい感想をいただいたりしている。今後とも力の限り書いていきたい。 さて続くコロナ禍。世界各国でフェスはオンラインに移行し、様々な方法で行われている。予定されていた演目の収録映像(市販DVD等も含む)を配信するもの、ライヴ公演を配信するもの、新作動画作品を作って配信するものなど。オレが毎年訪れていたシンガポールの「M1 CONTACT コンテンポラリー・ダンスフェスティバル」は最後の方式だった。いずれも若手で、一人で作る作品、シンガポールと韓国でビデオレターのように短いダンスを往復させた作品、ふたつの部屋で踊る二人を2画面同時に一つの作品として配信された。そして世界のダンス関係者は鑑賞後、アーティストと直接話してフィードバックするのである。 もうひとつ感心したのは、日本のオンライン作品は「コロナ禍に負けないで作りました!」と頑張るものが多い。それはそれでいいのだが、こちらは分断・孤独・静けさ・コミュニケーション・人肌……というコロナ禍によって湧き上がる様々な感情「そのもの」を作品化しようとしていた。 なんといっても我々はいま、人類史に残る「事件」に立ち会っているのだ。そこに切り込むのもまたアーティストの使命だろう。 さて、横浜に新しくできたダンスのための場所「Dance Base Yokohama(DaBY)」は、コロナ禍のためずっと延期されていたがやっと正式に開場となった。コンテンポラリー・ダンスのために創設された(素晴らしい!)セガサミー文化芸術財団が運営する。芸術監督に就任した唐津絵理氏は愛知県芸術劇場シニアプロデューサーとの兼任となる。「日本のダンスに不足している、プロフェッショナルなダProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお
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