eぶらあぼ 2020.08月号
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32©Marco Borggreve佐藤俊介 & スーアン・チャイ デュオ・リサイタル10/21(水)19:00 浜離宮朝日ホール 問 朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/佐藤俊介(ヴァイオリン)深い愛情を寄せて、ベートーヴェンとシューマンの音楽を描きだす取材・文:平野 昭Interview 昨年、自らが音楽監督を務めるオランダ・バッハ協会管弦楽団を率いての来日公演で、従来の古楽演奏から進化を遂げたスタイルの秀演を聴かせ、新しいエポックの到来を証明した佐藤俊介。公私ともにパートナーであるピアニストのスーアン・チャイと、この秋東京でリサイタルを開く。「シューマンとともに祝う、ベートーヴェン・イヤー」というコンセプトによる演奏会について話を聞いた。 2人の作曲家の大作ソナタと小品の組み合わせについて、「シューマンは1845年にリストなどとともに、ベートーヴェン生誕75年を記念してボンにベートーヴェン像を建立するための資金集めとして、幻想曲 op.17を作曲しています。シューマンにとってもベートーヴェンは特別な先輩作曲家であったわけです」と語りながら、その言葉の端々にはベートーヴェンとシューマンの音楽への佐藤の深い愛情が窺える。 「最初は、変奏の名手であったベートーヴェンの技量と音楽的センスを示す『モーツァルトの《フィガロの結婚》から〈もし伯爵様が踊るなら〉の主題による12の変奏曲』を取り上げます。オペラのこの場面のユーモアをベートーヴェンがいかに見事に表現しているかを描きあげたいと思います」 そして、「いかにもベートーヴェンらしい感情的でドラマティックな表現を持つソナタとして、彼にとって特別な調性であるハ短調で書かれたヴァイオリン・ソナタ第7番 op.30-2を取り上げます。彼はこのソナタを作曲することで『新しい道を切り開いた』と言っています。難聴が進み始めた1802年の作品なので、そうした成立背景などもこのソナタには反映されているでしょう」と語り、変奏曲とソナタのコントラストもプログラミングの理由であるという。 さて、一方のシューマンについてはどうか。日本ではヴァイオリンのための作品を聴く機会は多くない。「ヨーロッパではソナタも小品も演奏会でよく耳にしますよ」と佐藤。 「ピアノ曲『ダヴィッド同盟舞曲集』にも登場するフロレスタンとオイゼビウスという全く対照的な性格をもった人物の雰囲気が描かれている。テンポや音色や抑揚を音楽に合わせてうまく変化させてゆかないとシューマンらしさが表現できません。そういう意味で表現の難しい作品なので、日本であまり取り上げられない理由もその辺にあるんでしょうね」 シューマンはイ短調(第1番)とニ短調(第2番)の2曲のヴァイオリン・ソナタを書いている。第2番を選んだ理由について「どちらも私の大好きな曲なのですが、2番の方がスケールが大きく、演奏者としての個人的な解釈表現をたっぷりと述べるスペースを与えてくれるからです」と語ってくれた。 さらに、ヴァイオリンやチェロで演奏される機会の多い室内楽の傑作「幻想小曲集」op.73(原曲:クラリネットとピアノ)を二人のデュオで堪能できるのも非常に楽しみだ。藤田真央 ピアノ・リサイタル俊英が奏でる様々な「幻想」を聴く文:長井進之介 藤田真央は2017年、わずか18歳にして第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝し、聴衆賞をはじめ多くの特別賞を受賞。19年にはチャイコフスキー国際コンクールでも第2位を受賞し、全世界から注目を集め、愛されるピアニストとなった。 自然体な演奏、奏でられる音の美しさ、歌心の豊かさが魅力の藤田のリサイタルは幅広いレパートリーと個性的なプログラミングが特徴的だが、今回は「幻想」をテーマに設定。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番「幻想曲風」9/17(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp ©EIICHI IKEDAで開始すると、ロシアの空気を存分に感じるチャイコフスキーの「ドゥムカ」や、アルカンの超絶技巧作品「イソップの饗宴」など、バラエティに富んだ内容が展開していく。あらゆる“幻想”の世界、ピアノ音楽の様々な可能性の探求を楽しめるとともに、超絶技巧を純粋な音楽表現へと自在に昇華させることのできる、稀少な藤田のピアニズムを存分に味わえる公演だ。

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